まるで与太話だが政治への影響力に重大懸念

 一連の発言の中でマスク氏はさらに、この対話を通じてヴァイデル氏がいかに常識的なことを訴えているかを理解して欲しいと述べている。ヴァイデル氏は、これまで主流メディアから「過激派政党としておとしめられてきた」と主張し、マスク氏のおかげで「初めて普通の対話ができている」と謝意を示した。

Xでマスク氏と対談するAfDのアリス・ヴァイデル氏=9日(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ヴァイデル氏やマスク氏の言い分では、あたかもAfDが一方的に主流メディアの「被害者」として標的になっているかのようだ。しかし、そもそも同党を極右過激派と位置付けたのは主流メディアではなく、ドイツの公安当局である。

 昨年には調査報道によって、AfD幹部がネオナチやその他の過激派と共に、すでにドイツ国籍を有する合法的な在住者までを含めた移民や難民を国外に大量追放する計画に加担しようとしていたことが明るみとなった。このAfD幹部の中には、当時ヴァイデル氏の側近だった人物も含まれていた。

 ヴァイデル氏が今回の対談で一見「常識的」な主張を展開しているように見えるのならば、過激派との関わりがあるAfDについて、そうした不都合な事実をマスク氏が一切取り上げなかったからだ。つまり今回の対談は、マスク氏が自社のプラットフォームを使ってAfDに都合の良い情報とイメージを垂れ流させる得票目的の宣伝工作であり、AfDを選挙で勝たせるためのプロパガンダと捉えることもできる。

 米ブルームバーグはこの対談を、マスク氏によるXを使ったAfDの「無償広告」ではと伝えている。

 対談の終盤ではネタが尽きてしまったのか、ヴァイデル氏からマスク氏へ「あなたは神を信じるか」という珍妙な質問まで飛び出している。

 年明け早々、気の毒にもこのマスク・ヴァイデル両者による、政治談義とも呼べぬ与太話を真面目に分析しなければならない人々がいる。欧州委員会である。

 Xは2023年12月以来、欧州におけるデジタルサービス法(DSA)違反の疑いで欧州委員会に調査されている。違法行為が認められれば、プラットフォームは全世界での年間売上高の最大6%の罰金を科せられるほか、一時的にサービスが遮断されることもある。23年に問題となったのは、同年10月に始まったイスラム組織・ハマスとイスラエル間の戦闘に関連し、Xで拡散されたヘイトスピーチや誤情報、暴力的なコンテンツなどである。

 昨夏には暫定調査結果が発表され、欧州委員会はマスク氏が旧ツイッターを買収してから付与の条件が変更された青い認証マークなどがDSA違反であると指摘している。そして、今回のヴァイデル氏との対談についても調査対象に加えるとした。