美容医療の問題を自己責任で放置していいのか?
瀬戸さんは救急車を呼んで、神戸の病院の集中治療室(ICU)で3日間過ごした後に、回復に至った。しかし、あごの周りは腫れた状態が続いている。
とんでもない経験をしたものの、瀬戸さん自身は美容クリニックに恨みはなく、腫れが引けば、あご周りの脂肪が減った状態になると考えて前向きにとらえている。
瀬戸さんの経験を通して、美容医療の何が問題かを考えると、施術の手軽さに比べてリスクが高いという点が挙げられる。
美容医療でなく別のサービス、例えば飲食店であれば、サービスを利用した人が退店し、数時間経ってから不測の事態で緊急対応を求められることはほとんどないだろう。
それに対して、美容医療では、往々にして瀬戸さんが経験したような合併症を経験する人がいる。そのトラブルの程度が、看過できないほどに重いものであることが珍しくない。それにもかかわらず、美容医療の提供者は、その後のフォローに対応できていない事例が少なくない。
かつて美容医療は気軽に受けられるものではなかった。それに対して、コロナ禍でのマスク生活や在宅で受ける人のすそ野が広がり、手術を伴わない施術も増えたことで、美容医療を受ける人が増えた。事前に美容医療に関する十分な情報を得ていない、知識の少ない人も施術を受けている例も増えていると考えられる。結果として、医療機関と受ける人との間の情報デバイドが広がっている。
美容医療は自由診療の仕組みの中で、自己責任で施術を受けている。しかし、実際を見ていると、医療機関に任せておけば、トラブルを解決してくれると言える状況ではない。健康被害は完全に自己責任とは言いきれず、社会として何らかの手を打つべきときに来ているといっていいかもしれない。2025年は、業界ガイドラインが新たに作られるなど、新しい動きが予定されている。安全策は重要な課題になる。
星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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