金融緩和状態なのになぜFRBは利下げするのか?
筆者は流動性=カネ余りの指標として、シカゴ連銀が毎週公表する金融環境指数に注目してきました。この数値はシカゴ連銀が100以上のデータをもとに、資金調達の容易さを指数化したものです。
FRB(米連邦準備制度理事会)は2022年3月から数次にわたって利上げを繰り返してきましたが、金融環境指数をみると、当初はともかく、途中から金融緩和状態に戻り、それに伴って株価が上昇してきた様子がわかります(図3)。
金融緩和状態なのにFRBが利下げに踏み切ったのには、何か理由があるはずです。
それは今後、この「カネ余りデータ」が急激に悪化することを察知し、先手を打ったのではないでしょうか。実際、流動性の悪化を示す現象は何点か見出せます。
1点目は、家計の余剰貯蓄が枯渇したことです。
コロナ禍に見舞われた際、米政府は各世帯にお金をばらまきました。2020年3月以降の1年間で総額6.5兆ドルの資金を供与したのです。
その結果、家計の貯蓄率は一時、史上空前の32%まで拡大しましたが、サンフランシスコ連銀の調査によると、そのお金は今年3月に枯渇したということです(図4)。
代わりに増加したのは金利が23%超のクレジットカードローン(いわゆるリボルビングローン)で、その残高は1兆ドルもあるとのことです。こんな状態が持続可能なはずはありません。年内のどこかでパニックが発生するのではないでしょうか。
2点目はリバースレポの残高がほぼ枯渇していることです(図4)。これは、FRBが政策金利の指標であるFFレートよりも高い金利を提示することで、民間銀行などの余剰資金を吸い上げる仕組みです。
そのリバースレポの残高は、ピーク時に2兆ドルもあったのですが、今では20分の1以下になってしまいました。銀行やノンバンクは不良債権の処理等で余剰資金がなくなっているのです。