「おもてなし」はいつまで持続可能か?

──「おもてなし」という言葉に象徴されるように、日本は高品質なサービスが強みと言われてきました。でも、ポンコツ化が進むと、「おもてなし」も過去のものになりそうです。

藤野:「おもてなし」は、あと5~10年は維持されるのではないでしょうか。

 世界を回って海外のサービスに触れていると、日本人の「おもてなし」がいかにハイレベルなのかを再認識させられます。日本のスポットワークの店員と海外の店員を比較しても、海外のほうがむちゃくちゃですからね。

 ただ、今後日本で経済的な格差が現れてくると、おもてなしのレベルにも格差が出てくるとみています。

 たとえば、サービス業では、敬語が話せない人材は低価格の現場で働くスポットワーク、しっかりとした日本語が話せる人材は正社員として接客の前面に立てるなど、どういう言葉を話すかによって労働者も客層も差別化されるようになるのではないでしょうか。

 こうした階層化された社会が「いい社会」かというと、僕はそうは思いません。ただ欧州や米国はすでに言葉で階級が変わる社会になっているので、それに近くなっていくような気がしています。

2013年の流行語大賞に選ばれた「お・も・て・な・し」と滝川クリステルさん(写真:共同通信社)2013年の流行語大賞に選ばれた「お・も・て・な・し」と滝川クリステルさん(写真:共同通信社)

──ここまでは主にサービス業の現場についてでしたが、公務員やホワイトカラーもサービスの劣化が進んでいると思いますが?

藤野:サービス業以外でも、日本の「ポンコツ化」は進んでいますね。公務員も募集人数に対して人が集まらず、相対的に入りやすくなっています。国家公務員のキャリア官僚も、最近は東大卒の人には不人気で、もう少し下のレベルの大学の出身者も増えていると聞きます。

 そもそも公務員は雇用が守られているので、競争が働きません。低いサービスを提供してもクビにはならないので、余計にサービス品質は改善しません。

 サービスを向上するには、首長がいかに公務員の職場環境を整え、やりがいを見出すかがカギになってくると思います。すると、リーダーシップのある首長がいる自治体と、昔ながらの問題意識のないおじさんリーダーの自治体とで、公共サービスに劇的な差が出てくるでしょう。

 これは企業ももちろん同じです。これまで以上にサービスの差が開く時代が来ると思います。

──あらゆることが二極化していくということでしょうか?

藤野:僕は「二極化というのはもう古い」と思っています。実は今起きているのは「多極化」です。【後編「2025年はおもしろおかしい10年の始まりか、それとも地獄の10年か?多極化する世界を生き抜く人、沈没する人」に続く】

(編集:若月澪子)

藤野 英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長
国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。「ひふみ」シリーズ最高投資責任者(CIO)。YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」など投資啓発活動にも注力する。東京理科大学上席特任教授、叡啓大学客員教授、淑徳大学地域創生学部客員教授。近著に『「日経平均10万円」時代が来る!』(日経BP 日本経済新聞出版)、『投資家がパパとママに伝えたい たいせつなお金のはなし』(星海社新書)

篠原 匡(しのはら・ただし)
編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表取締役
1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。
著書に、『人生は選べる ハッシャダイソーシャルの1500日』(朝日新聞出版)、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)
など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。テレ東ビズの配信企画「ニッポン辺境ビジネス図鑑」でナビゲーターも務めた。