半世紀前から繰り返されてきた「在韓米軍撤退論」
在韓米軍は1953年締結の軍事条約「米韓相互防衛条約」に基づき、韓国国内に駐留する。1950~1953年の朝鮮戦争で戦火を交えた北朝鮮や、背後にいる中国、旧ソ連など共産主義陣営の軍事的脅威から、自由主義陣営の韓国を守る「抑止力」として存在する。
英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)が発行する『ミリタリーバランス(2024年版)』などによれば、在韓米軍の兵力は約2万8500人で、在外駐留米軍の中では、日本(約5万5600人)、ドイツ(約3万9000人)に次ぐ規模である。
陸軍約2万人と空軍約8000人が主軸で、陸軍はM-1戦車の最新版を多数装備する第2歩兵師団(戦車部隊は他師団の部隊をローテーションで借り受け)がメイン。空軍はF-16戦闘機やA-10攻撃機を装備し、対地攻撃(空爆)を得意とする。
条約では、平時は米韓両軍がそれぞれ独自の指揮権を持つが、有事の際には両軍は米韓連合司令部の下に置くと決められ、在韓米軍司令官が事実上指揮権(戦時作戦統制権)を握る。つまり韓国が北朝鮮と戦争状態に入ると、韓国軍全軍は自動的に米軍の号令一下で戦うこととなる。
在韓米軍撤退の話は、半世紀以上前から繰り返されてきた。1960年代、アメリカはベトナム戦争に大軍を投入し、アジアでの共産主義ドミノ(ドミノ倒しのようにアジア諸国が次々に共産化すること)を阻止するため、韓国を自由主義陣営の最前線として重視。陸軍を中心に最盛期には6万人超の兵力を置いた。
だが、ベトナム戦争で苦戦し、膨れ上がる戦費でアメリカの財政は疲弊。当時のニクソン大統領は世界中に配置する米軍の統廃合を決意し、軍事費の大幅削減に乗り出した。同盟国には米軍依存をやめ、自国の防衛力強化に努めるよう訴えた。在韓米軍も例外ではなく、1971年に2個あった歩兵師団を1個に縮小した。いわゆる「ニクソン・ドクトリン」である。
その後1977年に発足したカーター政権は、当時の韓国の軍事独裁政権を嫌い、在韓米軍の全面撤退を計画した。だが国防総省や共和党議員から、極東アジアの安全保障の重大危機だと猛反発され、計画は撤回された。
現在は韓国軍の通常戦力は世界屈指で、北朝鮮軍の戦力をはるかに凌駕する実力を備えるまでに成長した。純軍事的に見た場合、米陸軍第2歩兵師団がまるまる1個半島に駐留しなければならない必然性は、以前と比べて相当低下している。仮に同師団が韓国から離れたとしても、実質的な軍事力バランスが大きく崩れるとは考えにくい。
むしろ米軍地上部隊の存在自体が、北朝鮮に対する心理的な抑止力となっている。万が一北朝鮮が韓国を奇襲攻撃し、米軍地上部隊に多数の死傷者が出た場合、完膚なきまでの報復に出るのがアメリカの流儀であり、それは北朝鮮側も十分に承知しているはず。
最近は朝鮮半島に駐屯するという地の利を生かし、第2歩兵師団配下の部隊を、インド太平洋地域に派遣するためのコア部隊としても活用している。だが、何が何でも朝鮮半島に駐留していなければ韓国の安全保障が保てない、という現状ではないだろう。