集団レイプの被害者ジゼル・ペリコさんは、全てをさらけ出しておぞましい犯罪の詳細を明らかにした(写真:Coust Laurent/ABACA/共同通信イメージズ)

フランスで起きたおぞましい性暴力事件の裁判で12月19日、被告に禁錮20年の判決が言い渡された。夫が妻に薬を飲ませるなどして意識のない状態にした上で、10年近くにわたり少なくとも50人以上の共犯者とともにレイプし続けた事件だ。チャットグループで仲間を募り、暴行の様子を撮影するなど、その猟奇的な行為は世界に衝撃を与えた。被害を受けた女性は自身がレイプされている動画を含め、裁判ですべてを公開。その勇気ある行動を称賛する声が広がるが、事件は社会に重大な課題も突きつけた。主要な問題点を4つにまとめた。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 ラベンダー畑の広がる南仏の小さな村で幸せな余生を送っていたはずの女性は、ある日警察から衝撃的な事実を知らされる。人生で最も信頼していたはずの夫が10年近くもの間、薬物を使って女性の意識を奪い、性的暴行を加えていた。夫はその上、何十人もの見知らぬ男にまで女性を陵辱させていた。そして、そのおぞましい光景は、他ならぬ夫に撮影されていた――。

 女性の名はジゼル・ペリコさん(72)。2011年から2020年までの間、当時夫だったドミニク・ペリコ被告(72)から睡眠薬や抗不安薬を食事などに混ぜられ、意識のない状態で少なくとも50人以上の男たちから強姦されたり、性的暴行を受けていたりした。証拠となった動画で特定が不可能だったその他20人ほどは、現在も罪を免れているという。

 12月19日、地元裁判所は求刑通りドミニク被告に対し、加重レイプでの最大の刑期である禁錮20年の判決を言い渡した。その他50人の共犯者に関しても、量刑にばらつきはあるが全員がレイプなどの性的暴行で有罪判決を受けた。ドミニク被告には、これ以外にも1990年代に起きた未解決の強姦殺人事件と強姦未遂に関わっている可能性があるとされ、警察が捜査を再開している。

 被告は妻に加え、実の娘にすら性的暴行を加えた可能性もある。妻への暴行を記録した2万以上に及ぶ動画などのファイルの中には、娘が自分のものではない下着を着用して横たわる画像も発見された。

妻に薬を飲ませ、無意識の状態で集団レイプを繰り返した元夫のドミニク・ペリコ被告(写真:Coust Laurent/ABACA/共同通信イメージズ 「ABACAPRESS.COM」)

 事件の猟奇性に加えてこの裁判が広く注目を集めたのは、被害者であるジゼル・ペリコさんが実名と顔を公表し、公開裁判を望んだからだ。ペリコさんは、今年9月に始まった裁判の判決を受け「社会全体にこの裁判で行われた議論の証人になって欲しかった」と語った。

「私は(裁判を公開するという)決断を一度も後悔したことはありません。私は今、女性も男性も等しく敬意と相互理解をもって調和して生きられる未来を、全ての人たちが見出すことができると確信しています」(19日・ジゼル・ペリコさん)

 ペリコさんの行動は世界的な注目を集め、主流欧米メディアの中には彼女を「英雄」と讃える論調が少なくない。ペリコさんは英フィナンシャル・タイムズ紙が選んだ今年の25人の中に、人気歌手のテイラー・スウィフトさんらと共に選出されている。

 しかし、当のペリコさん自身は、英雄などと祭り上げられることなど望んでいない。BBCの取材に応えたペリコさんの弁護士は、「私は普通(の人間)だ」と何度も繰り返したとしている。

 ペリコさんは3人の子供たちと7人の孫に恵まれ、夫と共に南仏の小さな村で、時には合唱を楽しむ幸せな生活を送っていた。しかし、夫らの蛮行が彼女に「生涯癒えない傷を残した」と公判で語っている。

 ペリコさんの事件が社会に問いかけたのは何だったのか。様々な側面があるが、重要なポイントを4つにまとめた。