ジャニーズ事務所は9月7日、記者会見を開いた(写真:AP/アフロ)
  • ジャニー喜多川氏の性加害疑惑を BBCが大きく報じたことをきっかけに、ジャニーズ事務所にメディアが忖度(そんたく)し沈黙してきた構図が明らかとなった。
  • だが、そのBBCにもかつて、名物司会者ジミー・サヴィル氏の大規模な性加害疑惑について「見ぬふり」をした過去がある。イギリス王室からも評価された大物に対する忖度が背後にあったとされる。
  • BBCは独立審査で検証した。NHKはクローズアップ現代で検証番組を報じたが、ジャニーズ事務所だけではなくメディア各社にも抜本的な出直しが求められている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)


 ジャニーズ事務所が創設者であるジャニー喜多川氏の性加害を認めた会見から一夜明けた9月8日以降、アサヒグループホールディングスやキリンホールディングスなど大手企業各社が、同事務所に所属するタレントのCM起用を見直すと相次いで発表している*1

*1:ジャニーズ所属タレントのCM起用に関する各社の方針
日産自動車、ジャニーズと新規契約せず キムタクは継続(9月11日付、日本経済新聞電子版)
サントリー、ジャニーズと新たな契約せず 性加害問題(9月11日付、日本経済新聞電子版)
ジャニーズタレント、起用見直し広がる アサヒやキリン(9月8日付、日本経済新聞電子版)


 長年君臨してきた「エンターテインメント帝国」が、ガラガラと音を立てて崩壊しているようだ。広告業界における混乱は必至だろう。

 会見は創設者として業界に絶対的な権力を誇示してきたジャニー喜多川氏の性加害を認めるのみならず、組織としての「隠蔽体質」も是正し、クリーンな企業として再出発するための大きな機会となり得たはずだ。それにもかかわらず、新たに社長となった東山紀之氏自身が本人の性加害疑惑について「もしかしたらしてる可能性もあるし、もしかしたらしてないかもしれない」などという禅問答のような回答をするなど、その機会を棒に振った。

 不祥事が起こると突然記憶喪失に陥るどこかの政治家のような珍回答を新社長がしてしまっては、企業の社会的責任を全うできるはずはない。そんなジャニーズ事務所から広告主が逃げ出すのも無理はない。改めて同事務所の危機管理能力の低さを露呈した。

 先の東山氏の発言については、英公共放送のBBCも8日の電子版で詳報している*2

*2東山氏にも性加害疑惑、ジャニーズ事務所新社長に就任も批判や疑問の声(9月8日付、BBC日本語版)

 おぞましい性加害が広く知れわたり、ジャニー喜多川氏が生前に手にした芸能プロデューサーとしての功績は抹消されたに等しい。多くの被害者の苦悩にようやく光を当て、ジャニーズ事務所に喜多川氏の性加害を認めさせるきっかけを作ったBBCには敬意を表したい。

 一方、日本のメディアはどうだろうか。