第4部 ロシアからウクライナ経由欧州向け天然ガスPL輸送量概観
ロシアとウクライナは交戦中ですが、上述通り、ロシアからウクライナを経由する天然ガストランジット幹線PLは稼働しています。
本稿ではまず、この天然ガス幹線PLの輸送能力を確認しておきたいと思います。
ソ連邦西シベリアからソ連邦ウクライナ共和国~チェコスロバキア経由西欧向け天然ガスPLの公称年間輸送能力は142bcm、ソ連邦白ロシア共和国~ポーランド経由東独向け天然ガスPLの公称年間輸送能力は38bcmでした(bcm=10億立米)。
これは現在でも発表されている公称輸送能力ですが、実際の輸送能力はPL保守点検・定期修理などを勘案すれば、大分低い数字になっているものと推測されます。
露ガスプロムは2020年まではウクライナ経由欧州向け天然ガストランジット輸送量の明細を発表していましたが、現在では非開示です。
参考までに、2012年からのウクライナ経由欧州向け天然ガストランジット輸送量は下記グラフの通りです。ここで、「非CIS欧州向け」とは(欧州諸国-バルト3国+トルコ)を指します。
ちなみに、2019年12月2日からは中国向け天然ガスPL輸出が始まったので、露ガスプロムが「非CIS諸国向け」という場合、(欧州諸国-バルト3国+トルコ+中国)を意味します。
上述通り、交戦中の現在でもロシアからウクライナ経由欧州向け天然ガスPLは稼働しており、約40mcmd(百万立米・日量/年間約15bcm)の天然ガスが流れています。
ロシアはウクライナの電力インフラを攻撃していますが、天然ガスPL沿線は避けています。
旧ソ連邦時代に建設されたPLゆえ、どこに埋設されているか熟知しており、PL沿線は攻撃していません。
日系の大手メディアではよく、「ロシアはウクライナのエネルギーインフラを攻撃している」と報じていますが、ロシア語のエネルゴ施設は石油やガスPLではなく、電力インフラ(発電所・変電所・送電線等々)のことです。