第2部 ソ連邦西シベリアから欧州向け天然ガス輸出構想誕生

 ロシアとウクライナは戦争中ですが、ロシアからウクライナ経由欧州向け天然ガスPLは今でも稼働しています。

 ロシアからウクライナ経由欧州向け天然ガスPLは2系統ありますが、現在稼働しているトランジットPLは「Brotherhood(同胞)」と呼ばれている北側を通過する幹線PLです。

 この幹線PLが通過するロシア・ウクライナ間の国境の町が露クルスク州スジャ計量基地にて、ここでロシア産天然ガスが計量され、ウクライナ側に圧送されています。

 スジャ基地周辺は現在、ウクライナ軍に占領されています。

 一時期、ウクライナ軍は天然ガス輸送を支配すべくスジャを制圧したとの報道も流れました。

 スジャ基地から他国に天然ガスが流れるのであればそのようにも言えますが、天然ガスはスジャ基地からウクライナ側に流れてくるのです。天然ガス輸送を支配するためにスジャ基地を占領する必要性はありません。

地図出所:米EIA

 筆者は「戦争しているのに、なぜガスPLは稼働しているのか?」との照会をよく受けるので、今回は最初に、旧ソ連邦西シベリア産天然ガスの欧州向け輸出構想誕生の経緯を概観したいと思います。

 旧ソ連邦から西欧向け最初の天然ガス輸出契約は1968年6月1日に調印されました。

 当時のソ連邦石油公団とオーストリアのOMV (Österreichische Mineralölverwaltung) はこの日、年間1.4億立米の天然ガス供給契約に調印。

 なぜソ連邦石油公団が西欧向け天然ガス輸出契約を調印したのかと申せば、当時はまだ天然ガスを輸出する貿易公団(ガス輸出公団)はソ連外国貿易省の中に存在しなかったからです。

 ソ連邦から東独・西独向けに西シベリア産天然ガスが本格的に輸出開始されたのは1973年のことでした。

 西独ではそれまで「赤いガス」を輸入することに対し、西独金融界(反対派)と産業界(賛成派)が対立して世論を二分する大論争が起こっていたのです。