第3部 ソ連邦西シベリアから欧州向け天然ガス輸出構想実現の経緯
この論争に終止符を打ったのが、西独4代目首相に就任したW.ブラントSPD(ドイツ社民党)党首でした。
W.ブラントは首相就任後デタント(緊張緩和)を唱え、Ostpolitik(東方政策)を推進。
その尽力がソ連邦西シベリアから西独向け天然ガスPL建設プロジェクトとして結実しました。
ここで一つニュアンスがあります。ソ連邦の当初の希望は、ソ連邦白ロシア共和国(現ベラルーシ)からポーランド・東独経由西独向け天然ガスPLルートでした。
しかし、西独にとりさすがに東独経由西独は受け入れ難いということになり、ソ連邦ウクライナ共和国の国境の町ウシゴロドからチェコスロバキアに入り、西独向けPLルートが選択されました(白ロシア~ポーランド~東独向け天然ガスPLは別途建設)。
なお、ウシゴロドからオーストリア向けに支線PLが建設され、西シベリア産天然ガスがチェコスロバキアやオーストリアにも本格的に流れるようになりました。
ソ連邦・新生ロシア連邦は西欧諸国にとり信頼に足る天然ガス供給源でした。
50年以上の長きにわたり、安定的に安価な天然ガスがソ連邦・新生ロシアから欧州諸国に供給されてきました。
一方、ソ連邦・新生ロシア連邦にとり西欧ガス市場は金城湯池であり、主要外貨獲得源でした。
ですから両者は長年「Win-Win」の関係を享受してきたのですが、2022年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻後、この関係は崩壊。
2022年2月以降、ロシアから欧州向け天然ガス輸出は激減しました。
参考までに、EU加盟国の天然ガス需要に占めるロシア産ガス(PLガス+LNG/液化天然ガス)の割合推移は下記グラフの通りです。
2000年5月にV.プーチン新大統領誕生以降、ロシア産天然ガスはEUガス需要の約3分の1を満たし、ウクライナ侵攻前には4割以上がロシア産ガスになりました。
安価なロシア産天然ガスは安定的に供給されていたので、欧州大手需要家は好んで長期契約でロシア産天然ガスを輸入しており、ドイツ経済の繁栄もソ連・ロシア産天然ガスに負うところ大でした。