トランプ氏と石破首相の相性
──今回の米大統領選では、バイデン・ハリス政権がイスラエルを止められないという理由からトランプ氏に投票したアラブ系の方もそれなりにいたと報道されました。でも、トランプ政権になれば停戦には持ち込めるかもしれませんが、その後、イスラエルによるパレスチナの支配がますます進み、米国はそれを徹底的に放任するのではないかという恐怖があります。
久保:今回の選挙で私が感じたのは、米国に住むパレスチナ系の人々のバイデン政権に対する絶望にも近い怒りです。なぜそんなにイスラエルを支援するのかと。ただ、中長期的に見れば、トランプ政権のほうがパレスチナには厳しい結果になる可能性があります。
──やがて日米首脳会談が行われます。会談でどんな点が話し合われると思われますか?
久保:石破首相とトランプ次期大統領が会談するタイミングでは、日本に対する関税の話が出ているかもしれません。あるいは、首脳会談で関税をかけるという警告が出るかもしれません。日本からすると、根拠の不確かな関税をかけられた場合、当然、異議を申し立てることになると思います。
第1次トランプ政権でも、中国の鉄鋼やアルミニウムに対して制裁関税がかかりましたが、実はEUや日本にもかけられました。今回は、より広範なものを対象に、より大きな関税を課してくる可能性がある。
トランプ氏は貿易赤字にとても敏感です。一時よりは、日本の米国に対する貿易黒字は減ったとはいえ、この部分を突いてくる可能性はあります。
バイデン政権と岸田政権時代には、こうした日米の通商をめぐる確執は、基本的には俎上に上りませんでした。関税の話をする際に、日米にとって中長期的により重要なのは、中国による経済的威圧にどのように協力して対応するかであるという点に注意喚起し問題提起する必要があると感じます。
第1次トランプ政権では、安倍首相の強い要請もあり、トランプ氏は北朝鮮の拉致問題にかなり対応してくれました。今回もまた、日本政府から同じように協力を求める可能性や、それにトランプ氏が応えてくれることもあるかもしれません。こうした部分に関しては、石破首相とトランプ氏のケミストリーが重要になります。
トランプ氏との間では、それほど価値観のようなものは問題にならず、通商問題を中心とした国益が重要になる。そして、首脳同士の個人的な関係が普通の政治家以上に大事なのではないかと思います。少し不本意かもしれませんが、そういう付き合い方に対しても用意しておく必要があると思います。
日本にとってはやはり、日米同盟の意義がテーマになるべきでしょう。尖閣諸島の防衛の問題なども含め、日米は歩調を合わせて中国を抑止していきたい。ですから、日本としては、関税や貿易赤字をめぐる損得の話をするだけではなくて、広く安全保障全体も含めて話をしていきたい。
日米安保条約の第5条で米国の防衛義務を定めていますが、米政府の公式見解では、それが適応されるべきなのは、日本が尖閣諸島を実効支配しているからだと説明している。前述のマルコ・ルビオ上院議員は、10年以上前から尖閣諸島の主権がそもそも日本にあることを、米政府は一歩進んで認めるべきであるとまで言ってくれています。
久保文明(くぼ・ふみあき)
防衛大学校長、東京大学名誉教授
東京大学法学部卒業。筑波大学社会科学系講師、米コーネル大学客員研究員、筑波大学助教授、慶應義塾大学法学部助教授、米ジョンズホプキンズ大学客員研究員、慶應義塾大法学部教授、米ジョージタウン大学および米メリーランド大学客員研究員、放送大学客員教授を経て、東京大学大学院法学政治学科研究科教授。2021年より現職。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。