打撃練習する現役時代の掛布雅之氏=1985年2月、安芸市営球場(写真:共同通信社) 

ホームラン王に3度輝いた“ミスター・タイガース”こと掛布雅之氏が、その打撃の真髄をはじめて公開した『掛布の打撃論』(日本実業出版社)。自身のバッティングテクニックを詳細に語る1冊から、ポイントを4回にわたって紹介する。第2回は、従来の指導でよく言われる「ヘッドを立てろ」と「ダウンスイング」の本当の意味について。

※本稿は『掛布の打撃論』(掛布雅之著、日本実業出版社)より一部抜粋・再編集したものです。

ヘッドを立てろ=ヘッドを落とすな

 アマチュア野球の指導者がよく「バットのヘッドを立てろ」と教えることがあります。この言葉は打撃メカニズムを勘違いさせる可能性があります。

 物理的に考えて、バットのヘッドが上向きではボールを捉えるスイングはできません。「立てろ」というのは「落とすな」ということ。バットのヘッドが垂れるようでは、強い打球をはじき返せないので、立てるぐらいの感覚で振れということです。

「ボールをトップから最短距離で捉えるためダウンスイングにしろ」と教える指導者もいます。この言葉も意味を取り違えてしまうかもしれません。

 構えた位置からバットを下ろすときはダウンですが、そこからレベルになって、アップとなるのが正しいスイング軌道です。最後までダウン軌道では「腹切りスイング」となり、ゴロが多くなるし、いわゆるドアスイングとなってしまいます。

最短距離で捉えるにはバットのグリップエンドから

 もちろん、私の推奨する「レベルスイング」でも、トップの位置からバットは最短距離で出さないといけません。そのために意識していたのは「ダウン」というより、グリップエンドでボールを捉えにいくことです。

 ボールは両目で見て打ちますが、グリップエンドを第3の目として、ダウンスイングからボールを捉えるのです。そして、ボールが手元に入ってきたところで、バットの芯のところと入れ替えるというイメージです。そうすると、インサイドアウトのスイングとなって、バットが体に巻きつくような形のスイングができるのです。

 ダメなスイングとしてバットが遠回りする「ドアスイング」という言葉があります。これはグリップエンドでなく、最初からヘッドで打ちにいこうとするのが原因です。

 ドアスイングになると、ボールの外側をたたいてしまいます。すると、ボールは上がらずに、引っかけたゴロになってしまいます。

 私の理想の形は、ボールが手元に来たときに、外側をたたくのではなく、内側にバットを入れるイメージです。そして難しい表現になりますが、バットをボールに巻きつける感じで自分のほうに持ってくるイメージです。ボールを内側からグッとつかみとる感じ。違う表現をすると、バットを内から入れて、ボールの外をたたくイメージなんです。

 だからといって手首を返して無理やり、外をたたくというわけでもありません。体の回転に従ってフォロースルーをとると、自然と手首が返るという感じです。なるべく手首を返さず、どちらかというと押し込むイメージです。手首は返そうとしなくても、ボールを捉えた後に自然と返るので、あまり意識しないほうがいいでしょう。そのほうがフォロースルーも大きくとれますから。