こだわりのノックバット

 また松本氏は、新たなバット素材にも着目している。

 ダケカンバは、シラカバなどに近縁の広葉樹だが、成長が速い。バット素材にも適した木材だが、北海道ではダケカンバは「パルプ、チップ材」として扱われている。

 松本氏は北海道大学の加藤博之准教授らとともに、間伐されたダケカンバを素材としたバットを開発し、高校野球やアマチュア野球などに持ち込み、選手に「使用感」を聞くテストマーケティングを行っている。

「木製バットの場合『折れる』ことがネックですが、ダケカンバは粘りがあって折れにくく、素材としては優秀です。でも、間伐材の利用と言っても、いろいろな制約があり、安定した生産量を維持できるかどうか、簡単ではありません。また量的にダケカンバだけでうちのビジネスが成り立つわけではありません。ただ、自然環境を維持するプロジェクトに参加することは有意義ですし、一つの可能性として追求したいですね」

 もう一つ、バット職人として松本氏が情熱を燃やしているのは「ノックバット」だ。練習や試合前などに、コーチなどノッカーが野手にゴロやフライを打つためのバットだ。内野用と外野用に分かれ、それぞれフライやゴロを打ちやすい形状になっている。

 熟練のノッカーは、ただボールを打っているだけでなく、ゴロなら地を這うような猛ゴロ、当たり損ねのゴロ、ショートバウンドなどを打ち分ける。フライでも途中でお辞儀するフライ、反対に途中から伸びる当たりなどを打ち分ける。

「僕はノックバットのデザインをずっと考えてきたんです。ノッカーが打ちたいと思っているようなフライ、ゴロを自在に打てるようなノックバットを作りたい。だからコーチの方々とずっと情報交換をしてきました」

 普通のバットは、一つの木材から削り出して作るが、ノックバットは異なる素材を貼り合わせて、そこから削り出していく。まさに「裏方の道具」ではあるが、ノックバットにも奥深いこだわりの世界があるのだ。この分野もOEM生産を行っているが、同時に海外にも顧客があり、一定の評価を得ている。

ノックバットは2種の木材を貼り合わせてから削り出す(筆者撮影)
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