“山師スタイル”の経営手法が新たな伝説を生むか
もっとも、この自動運転についてはマスク氏が描いた構想通りに実現するとは限らない。マスク氏の経営手法は人々が到底無理と思うような目標をブチ上げ、その後に壮絶な努力でそれを実現させて称賛を呼ぶという典型的な“山師スタイル”だ。
伝統的メーカーならとても口にする勇気を持てないようなことでも、技術的に少しでも可能性があるのなら平気で公言する。公約実現の感覚的な打率は5割というところだが、それだけでも伝説化には十分だ。
そのマスク氏が今まで最も外し続けている“予言”が自動運転だ。それを今度こそ実現させられるかどうかはテスラの次なるブランドイメージ、市場支配力を決定付けるだけに、この大ばくちは業界でも当然のように注目を浴びている。
AIによる自動運転の実用化において、人間ができないことをやるのは当然だが、それ以上に難しいのは人間ができることを全てできるようにすることだという。
テスラの先進性は申し分ないが、問題が発生したときにそれに真摯に向き合うという姿勢が欠けているという点が常に批判の的となっている。そのテスラが事故の責任を全てメーカー、運行者が負う完全自動運転にそもそもなじむのか。
今後の行方はまだ分からないが、マスク氏にとってはDOGEのトップとしての社会変革から自動運転の実用化までが全てひとつながりであることは明らかだ。このチャレンジが伝説を生むのかドン・キホーテを生むのか、当分目が離せそうにない。
【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。