サプライチェーンの再検討が必要になる日本企業

 このように米国の経済安全保障の取り組みが変化すれば、日本企業はサプライチェーンの再検討を含む事業戦略の見直しを迫られることになるだろう。

 米国の貿易赤字額第5位(2023年)の日本は、トランプ2.0で通商分野での厳しい要求を突きつけられることも想定される。

 トランプ1.0では、日本の農産物関税や自動車分野の「非関税障壁」などが問題視された。トランプ2.0でも、米国の対日貿易赤字削減のため、高関税賦課の脅しの下で、農産物市場の開放や規制緩和、日本企業による対米投資増を迫ってくる恐れがある。

 トランプ氏は米製品の競争力を削ぐとしてドル高円安を「大惨事」として嫌っているが、トランプ氏が公約通り、移民政策を厳格化し、関税措置を多用し、減税を実施すれば、インフレ再燃や財政悪化の懸念から、米金利が上昇し、ドル高円安が進む恐れが指摘されている。

 この場合、トランプ氏は、日本が為替操作を行っているとして、関税賦課の脅しをかけてくる可能性もある。

 同盟国であってもお構いなしに関税賦課を主張するトランプ氏の下では、米国主導のフレンド・ショアリング構築は期待できない。メキシコ拠点からの対米輸出、いわゆるニアショアリングも、その再考が必要となるかもしれない。米国内に生産拠点を設けることや、米国拠点での現地調達率の引き上げも検討課題となる。

 米国による対中貿易投資規制の拡大・厳格化は、日本政府がこれと歩調を合わせることも考えられ、日本企業の対中ビジネスをより難しくするだろう。米国市場から排除された中国企業・製品が東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国等の第三国市場に流入し、日本企業との競合が一層激しくなることも想定される。

 冒頭で述べたように、トランプ氏が選挙戦で掲げた公約がすべてその通りに実現するわけではないが、明確な「ブレーキ役」を欠く中で、その実現可能性は高まっている。トランプ2.0で米国の経済安全保障の取り組みがどのように変化するか、日本企業も注視していく必要がある。

菅原 淳一(すがわら・じゅんいち)
株式会社オウルズコンサルティンググループ・シニアフェロー
 経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部専門調査員(貿易・投資・非加盟国協力担当)、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社調査部主席研究員(プリンシパル)(通商、経済安全保障等を担当)等を経て現職。一般財団法人国際貿易投資研究所(ITI) 客員研究員。
 通商政策や経済安全保障に関する政策分析に長年従事。WTO、EPA(FTA、TPP、RCEP等)、APEC、日米・米中通商関係、主要国の経済安全保障戦略などに関し、寄稿、講演、テレビ・ラジオ出演、研究機関研究会・経済団体委員会委員等多数。