さらに、先に紹介した周杰倫のコンサートを仕掛けているプロモーターがシンガポール系であることでも分かるように、中華圏のエンタテインメント業界はよりグローバルになっている。その世界戦略は、マーケットを確実に見極めた上で、したたかにグローバルな興業に打って出ることだ。これもチャイナタウンが世界各地に点在しており、それぞれに大きなマーケットが形成されている中華圏のポテンシャルがあるからこその展開だ。
こうした時代の変化が、これまでの「出稼ぎ」モデルから「海外巡業」モデルへの転換を促している。
いまのところはウィンウィンの関係
東京を中心とする日本を公演会場に選ぶ華人プロモーターは、日本人の想像を超える先見性を持っているかもしれない。例えば今後、激化する中国と台湾の政治・イデオロギー問題にアーティストが巻き込まれそうな場合は、日本で公演することでリスクを回避する狙いもあるだろう。生涯を通じて中国との距離を取り続けていた台湾出身の歌手テレサ・テンにとって、生前、日本という地が最高のステージになっていたように。
今のところ、台湾人アーティストと華人プロモーターはおおかたウィンウィンの関係にあるので、それほど摩擦が起こることはない。日本で公演をする場合には、日本の会社が華人プロモーターから会場の確保などを請負うという形で関わることが多いが、日本側としても中国人が武道館を埋めてくれ、公演ついでに観光で金を落としてくれる、というメリットがある。このビジネスモデルが定着すれば、今後も中華圏の人気シンガーたちの公演を日本各地で開くことが定番となっていくだろう。
日本における華人たちの躍動は、「ガチ中華」に代表される中華料理店進出だけには止まらず、トータルなエンターテインメントの世界にも浸透していきそうだ。
広橋賢蔵
(ひろはしけんぞう) 台湾在住ライター。台湾観光案内ブログ『歩く台北』編集者。近著に『台湾の秘湯迷走旅』(共著、双葉文庫)など。
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