李に続いて武道館公演を成功させた張惠妹(2回公演)、周華健(1回公演)は、どちらも台湾芸能界では大御所と言える存在だ。
ほかにも大規模なところでは、今年4月に周杰倫(ジェイ・チョウ。45歳。2000年デビューで中華圏音楽シーンのキング的存在)がKアリーナ横浜で「カーニバル・ワールドツアー」を、10~11月には若手の林宥嘉(ヨガ・リン。37歳。デビューは2008年)による東京ドームシティホール、グランキューブ大阪での公演が開催された。
周杰倫のコンサート会場では、中国各省のファンクラブの横断幕を掲げるなど、東京まではるばるやって来たことをアピールする中国人のファンたちの姿もあった。
華流ポップスが日本へ押し寄せる波をどう考えたらいいのか。
コロナ後の円安で東京が身近に
まずはコロナ禍後に海外への往来が自由になったことと、為替が大幅な円安に振れたことが大きく影響しているようだ。大型のコンサート会場がこれまでよりも安価にレンタルできるようになり、主催者側にとっては利益が出しやすいビジネスモデルとなった。
華人アーティストたちのコンサートチケット料金はおおむね1万〜3万円に設定されているが、中間層以上の中国人から見れば円安のため割安感があることに加え、公演を楽しむついでに日本で観光や買物などに興じることができる。
そもそも中国人の立場になって考えれば、広い中国の各地で開催されるコンサートは、ファンにとってはどこも遠く感じる。上海から東京を直線距離で結ぶと約1800キロだが、これは北京―広州間の距離とほぼ変わらない。中国国内の公演チケットを物色するより、いっそのこと東京公演のチケットを入手して観光もしていこう、という話になる。人口も多い中国では、そういう消費を選択できる層も確実に存在しているわけだ。
台湾人歌手が中華圏の音楽シーンを席巻した90年代
ここで、台湾出身のアーティストたちが、中国大陸マーケットで支持されている背景を紹介しよう。
1980年代、民主化が進む台湾では、政治的にも文化的にも自由な気風が生まれた。それまでは演歌調や日本歌謡曲の焼き直しが多かった音楽界だったが、この頃から、作詞作曲から演奏まで自分でこなすマルチな才能を持つシンガーが多く育てられていった。李宗盛はそんな中で音楽シーンに登場し、アーティストとしてのキャリアを積んでいった。
1990年代はCDの売上が好調だったため、アーティストたちの活躍の場は台湾が中心だった。上で名前を挙げた張惠妹、周華健なども、この時代に人気を高めた歌手たちだ。当時はシンガポールやマレーシア出身の華人系シンガーも、まずは台湾でデビューして、そこから中華圏全体にファンの輪を広げる、というルートを取ることが多く、台湾は若手華人アーティストの“揺り籠”でもあった。
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