「ねじれ状態」になった台湾立法院では、議案を巡る与野党の対立から、立法委員同士の乱闘が起こった(2024年5月17日、写真:ロイター/アフロ)「ねじれ状態」になった台湾立法院では、議案を巡る与野党の対立から、立法委員同士の乱闘が起こった(2024年5月17日、写真:ロイター/アフロ)

 今年(2024年)5月に民進党の頼清徳が台湾の総統に就任した。それから2カ月が経ち、台湾の政治にどのような変化が起こったか。また立法院(日本の国会に相当)との「ねじれ現象」が生じたなか、注目を集めている立法委員の3人はどんな人物か。最新の台湾動静をお伝えする(本文中敬称略)。

(広橋賢蔵:台湾在住ライター)

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※台湾の政治報道では独特の政治用語やスラングが飛び交うこともあり、本稿執筆にあたっては、文化大学新聞学科の荘伯仲教授にご協力いただいた。

 台湾民意基金会が6月18日に発表した世論調査によれば、頼清徳総統の支持率は48%が支持、26%が不支持、18%はどちらでもない、だった。さらに支持政党は民進党37%、国民党18%、民衆党14%という結果だ。

 1月の総統および立法委員選挙では、総統候補の得票率が頼清徳(民進党)40.0%、侯友宜(国民党)33.5%、柯文哲(民衆党)26.5%、立法委員の政党票が民進党36%、国民党34%、民衆党22%だった。

 これを比べると、頼政権は比較的好意的に受け止められているようだ。また政党支持も、民進党が持ち直している印象がある。

立法院の混乱が大規模デモに発展

 今年1月には台湾総統のほかに、立法委員選出の選挙も行われ、議席数113のうち、民進党が51議席、国民党が52議席で、与党・民進党が過半数を失った。その結果、議会が野党優位という「ねじれ状態」となった。立法委員は、日本の国会議員に相当するが、日本と異なり台湾の立法院は1院制である。

 その後注目を集めたひとりが国民党の韓国瑜(67)だ。韓は2020年の総統選挙で落選し、さらに選挙後に戻った高雄市長の座からは、リコールで追われるという、屈辱的な過去を持つ。その韓が立法院長として国政の中心に返り咲いたのである。

 韓の復活は何やら不穏な出来事を予感をさせたが、それが沸点に達したのが5月17日だった。立法院の機能を強化する法案を通過させるため、野党が強行採決しようとしたことで、与党・民進党が怒りを爆発させ、委員同士の大乱闘に発展した。

 法案の内容は、総統の定期的な政治報告を義務付け、調査権の拡大などを定めていることで、与党・民進党にとっては政権の制御を難しくするものだ。このため、法案可決は阻止したい場面だった。

 この議場内の乱闘を目撃して国政を憂慮した台湾市民が、立法院の周囲を取り囲んでデモに集まりはじめ、5月24日には10万人規模に達した。立法院の前が「青島東路」であることから、この大規模デモは「青島」をもじって「青鳥行動」と呼ばれた。人々は「沒有討論、不是民主(議論しないで民主は守れない)」と横断幕を掲げて、立法院内での動きを牽制した。

立法院での乱闘騒ぎを受け、10万人規模の市民が立法院の周囲を取り囲んだ(2024年5月21日撮影、写真:ロイター/アフロ)立法院での乱闘騒ぎを受け、10万人規模の市民が立法院の周囲を取り囲んだ(2024年5月21日撮影、写真:ロイター/アフロ)