カトリックのトランプ支持が増えた背景

松本:昨今のアメリカで争点になったのは、トランスジェンダーなどをめぐる性の自己決定に関することです。更衣室やお手洗いをどうするかなど、心と身体が一致しないと主張する子どもたちの扱いをめぐって大論争が巻き起こっています。

 こうしたことが政治テーマになることが非常に不愉快だと感じる人が福音派にはとても多く、「ジェンダーの良からぬトレンド」と明確に否定するトランプ氏の姿勢は、福音派の支持を集めています。

 加えて、アメリカのカトリックは現在、保守とリベラルで真っ二つに分かれています。

 ハリス氏もバイデン氏も「人工妊娠中絶は女性の権利だ」という主張を持っており、カトリックのリベラルとこの点で考え方が一致していましたが、「人工妊娠中絶には厳しくあるべき」と考えるカトリックの保守は、トランプ氏を支持しました。

──トランプ氏は「人工妊娠中絶は各州に判断を委ねる」という言い方をしています。これまでのトランプ氏のスタンスからすると、少しステップバックしたという印象も受けました。

松本:おっしゃる通りです。これも今回トランプ氏が有利になった一つの要因だと思います。中絶を厳しく否定すると女性票を獲得することが難しくなる。でも、中絶を容認したら福音派は離れてしまう。そこで「各州に判断を委ねる」という言い方をすることで、両者を立てようとしたのです。

 今回の選挙では、トランプ氏はヒスパニック(南米からの移民)票の獲得を伸ばしましたが、ヒスパニックにはカトリックが多い。でも、経済的に困窮している人も多く、子どもの数が多すぎると養っていけないという本音も持っています。

 そこに、トランプ氏が中絶を完全に否定するという主張から若干の緩和姿勢に移ったことで、支持しやすくなった側面があったと思います。

──トランプ氏の勝利によって、ウクライナ戦争や、イスラエルを中心とした中東情勢に対するアメリカの方針が大きく変化する可能性があると言われています。とくに中東情勢について考えた場合、宗教という観点からどんなことが言えますか?