アメリカの経済制裁強化で外国企業の「中国離れ」は加速する
中国政府の対米外交の古典的な手法は経済外交である。具体的に貿易不均衡などを理由にアメリカに制裁されそうになったとき、中国政府はアメリカに大規模な代表団を派遣して、ボーイングの旅客機や穀物などの農産物を大量に買い付ける。アメリカの大統領と議員たちにとって農家の票が重要であり、ボーイングなど大企業のロビー活動も影響が大きいため、対中制裁はたちまちトーンダウンしていく。
経済外交を補完するのは俗にいう“パンダ外交”である。中国政府はアメリカの動物園にパンダを貸与して、世論を親中の方へ導いていく。世論が親中へ傾けば、ホワイトハウスも議会も中国を制裁しにくくなる。
しかし、今は中国の古典的な経済外交もパンダ外交も機能しなくなった。なぜなら、3年間のコロナ禍によって8割以上のアメリカ人は中国のことをよく思わなくなったからである。アメリカは民主主義の国であり、政治が民意に左右されやすい。この点は北京が十分に理解していない可能性がある。
北京にとって古典的な外交手法が機能しなくなったため、それに代わる外交手法は実はほとんどない。トランプ流の外交手法の一つはディールであるが、北京にとってトランプとディールできるカードをほとんど持ち合わせていないのだ。
差し当たって心配されるのは、トランプが選挙戦のときに主張した60%に上る対中制裁関税の実施である。それが本当に実施された場合、中国経済にとって大打撃となる。
中国経済はコロナ禍以降、V字型回復すると期待されていたが、実際は下り坂をたどっている。
中国経済が急減速している要因は、コロナ禍をきっかけに不動産バブルが崩壊し、内需が弱くなっていることに加え、アメリカの経済制裁措置により外国企業はサプライチェーンの一部を中国以外の国へ移出しており、外需も弱くなっているからである。アメリカファーストを提唱しているトランプ2.0においてサプライチェーンの中国離れがさらに加速する可能性が高い。
習近平政権にとって事実上、トランプ2.0に立ち向かうための有効策について打つ手がない状況にある。むろん、トランプ政権にとっても中国との対立がこのままどんどん激化していくのは得策ではないはずである。
結局のところ、バイデン大統領が言ったデリスキング(リスクの低減)をどのようにするかは重要な課題である。トランプはけんかすることには長けているが、リスク管理は必ずしも得意ではない。