中国カンフー「酔拳」に似ているトランプ流の政治手法
大統領選挙の前に、中国国内で発表されたさまざまな論考を読むと、明らかにハリス政権の誕生が期待されていた。ハリスの民主党政権がバイデン政権の政策を継続し、少なくとも対話を続けてくれるだろうと北京は期待していた。したがってトランプの当選は北京にとって予想外の結果である。
振り返れば、そもそも中国に対する制裁を最初に発動したのはトランプ1.0のときだった。いきなり貿易不均衡が問題にされ、制裁関税が発動されただけでなく、中国のハイテク企業「中興」(ZTE)とファーウェイを制裁し、カナダ当局に要請して、ファーウェイのCFO孟晩舟を拘束した。これが米中対立のスタートとなった。
もちろん今の国際情勢は当時とは大きく変わっている。ロシアはウクライナに侵略した。パレスチナのテロ組織ハマスはイスラエル人を拉致した。それに対して、イスラエル軍はハマスの本拠地のガザ地区に対する掃討作戦を展開しているが、この戦争は長期化する様相を呈している。
それに加え、習近平国家主席は演説するたびに、台湾を統一するために武力行使も辞さないと明言している。東アジアの地政学リスクも日増しに高くなっている。
トランプ2.0にとってアメリカファーストだけでは、アメリカの繁栄は実現できない。重要なのはアメリカがいかにして国際協調を図るかである。トランプの目の前に立ちはだかるのはアメリカの国際政治学者が命名した中ロとイラン、北朝鮮の「悪の枢軸」である。トランプは常套のディール(取引)戦略で戦争を終わらせることができるのだろうか。
トランプは選挙戦の際、台湾に対して「守ってほしければ、お金を払え」と発言した。そして、アメリカの半導体技術が台湾に盗まれたとも主張している。このままいったら、アメリカ、日本、オランダ、台湾、韓国からなる「半導体同盟」が崩れてしまう可能性すらある。
トランプ流の政治手法はなんとなく中国カンフーの「酔拳」に似ているように見える。酔っぱらっているように見え、敵と戦っても勝ちそうもないが、不意に相手の要所を一撃する。トランプ一人で戦っているなら問題はないが、同盟国の政治指導者は「酔拳」の戦い方など知らないため、困った結末になってしまう。