米製造業に最も貢献国したのは日本だと正々堂々と伝えよ

 いくらトランプ氏が円安批判を展開しても日米金利差が大きいまま放置され、日本全体の外貨需給構造が脆弱な現状では円安は修正されようがない。そうであれば、対米黒字を力業で削り取るアクションを取るはずである。

 もしくは、「それ(追加関税)が嫌なら対米投資を増やせ」というトランプ前政権と同様の要求が予想されるだろう。

 だが、前政権時代にも何度も議論された点だが、日本は雇用・賃金のいずれにおいても多大なる貢献を果たしている国の一つであり、とりわけ自動車産業の直接投資が大きいという事実がある。製造業に限って言えば、歴史的に日本が最大の貢献国である。

 図表③はほかならぬ米商務省のデータだが、日本企業の米国経済への貢献の大きさは議論の余地がない。この点については安倍前首相がトランプ氏に正面から説いたこともあり、今後の政府・与党においても同様の働きかけが期待される。

【図表③】


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 もっと言えば、過去に何度も論じてきた通り、日本企業による対米国を含めた海外直接投資収益のうち、その半分近くは日本へ回帰せずに現地で外貨のまま再投資されている(統計上は再投資収益として第一次所得収支黒字を押し上げている)。

 統計上は黒字だが、キャッシュフロー上は黒字ではない──。いわゆる筆者が提唱してきた「仮面の黒字国」問題である。

「仮面の黒字国」の実利を享受するのはあくまで投資受け入れ先の国(この場合は米国)であり、投資実施主体(この場合は日本)ではある。米国を筆頭に日本企業が資金を投じてきた国はそこから雇用創出効果などを享受でき、賃金上昇という恩恵も当然あったはずだ。

 片や、日本は経常黒字を抱えていても通貨安によりインフレを輸入するような状態に悩んでいる。日本の経常黒字に関しては、米国から称賛されることはあっても非難される筋合いはないという事実を、数字と共にトランプ次期政権にも染みこませていくべきである。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年11月7日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。