ロシアに接近する本音

 北朝鮮内で反乱が生起した際、中国が反乱側に立つ可能性が高いとすれば、金正恩政権は誰に頼ればよいのだろうか。

 もしも、ロシアのプーチン政権と金正恩政権の間に強い繋がりがあり、反乱時にロシアが政権側に立って軍事的支援を行うとすれば、それは米韓に対してばかりでなく、中国に対しても大きな抑止力となる。

 その場合、中国が反乱勢力を支援することは、中ロ戦争につながりかねないからである。

 北朝鮮とロシアは、今年6月「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。

 同条約4条は、ロシアと北朝鮮のどちらが他国の侵略を受けた際、他方は「速やかに自国が保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と明記している。

 北朝鮮で内乱が起き、米韓軍か中国軍のいずれかが北朝鮮領域内に侵入した時点で、北朝鮮政府はロシアに軍事的支援を要請することができるということになる。

 この条約は、核兵器やミサイルの開発と並んで、金正恩総書記に大きな抑止力を提供するものであるといえよう。

 しかし、条約とはしょせん紙の上での取決めであり、実際に事態が生起した時、相手がそれを誠実に履行するという保証はない。

 そこで金正恩総書記は、あえてロシアに実際に兵力を提供することで、この条約による抑止力を高めようとしたのではないだろうか。

 この派兵には、国内をかえって不安定化しかねないという大きなリスクもあるが、それだけ金正恩総書記は追い詰められており、背に腹は代えられないのだと考えられる。

 ロシアも今はウクライナで手一杯であろうが、それが一段落すれば、今度はロシアが借りを返す番となり、この抑止力は一層大きなものとなる。

 このように抑止力として機能していさえすれば、ロシアが実際に戦力を送る必要もない。

 米国ではドナルド・トランプ大統領が誕生することになり、米国一国主義の下、米国は軍事介入にますます消極的になるだろう。

 このような中で、金正恩総書記にとってのロシアカードは、米韓に対してよりも、むしろ中国に対して重要な抑止力として働くことになる。

 これはあくまでも抑止力であり、中国と敵対するということではないので、北朝鮮と中国の間の貿易等を含む各種の関係は維持されよう。

 金正恩総書記が本当に狙っているのは、こういうことなのではないだろうか。