北朝鮮内乱時の中国の思惑

 中国にとって、北朝鮮は米韓との間の緩衝地帯であり、もし韓国が韓半島全域を支配することになれば、中国は韓国と直接国境を接することとなる。

 これは中国にとって悪夢である。

 なぜなら、この後も在韓米軍が駐留し続けるならば、1400キロにも及ぶ中韓国境のすぐ南側に米軍が所在し、中国の安全保障を脅かすということになるからである。

 北朝鮮で内乱が起きた場合、中国は何としてもこのような事態を避けなくてはならない。

 しかし、だからと言って米韓軍に支援された反乱軍に対抗するために、金正恩政府軍を支援すべく中国軍を送るならば、韓半島で米中戦争が起きてしまうことになる。

 米国との競争は覚悟の上とはいえ、中国としては、台湾のような死活的利益とは言えない韓半島で、米中が直接軍事対決に至ることは避けたいところであろう。

 だとすれば、中国にどのような道があるのだろうか。

 中国としては、金正恩政権と心中するくらいならば、むしろ反乱勢力を支援した方が得策だと考える可能性がある。

 このような反乱は、おそらく米韓の策略で起きるというよりは、北朝鮮国民の不満が爆発して起きると思われる。

 韓国としても、予期していなかった反乱を支援するために軍を動かすということになれば、北朝鮮政府軍との間での激烈な戦争を覚悟しなくてはならない。

 軍事介入に踏み切るかどうか韓国世論が割れ、米国との調整も必要で、軍事介入という結論が出るまでにはそれなりの時間がかかると予想される。

 それならば中国としては、間髪を入れずに反乱勢力側に立って金正恩政権を倒し、改革開放の名の下に新しい北朝鮮政府を樹立した方が得策だということになる。

 その際に、米韓が金正恩政権側に付いて参戦するということは考えられず、中国軍が多くの北朝鮮国民を味方に付けつつ、北朝鮮政府軍を制圧して支配下に置くことはそう難しくはないだろう。

 実は金正恩総書記も、そのように中国に裏切られる可能性は十分に意識していると考えられる。

 金正恩氏は父の死によって権力を継承した2年後、叔父の張成沢氏を粛清し、残虐な方法により処刑した。

 その背景に、張成沢氏が中国要人との間に太い人脈を持っていたことが関係しているとの観測もある。

 金正恩総書記にとって、中国は強力な後ろ盾であると同時に、最大の脅威でもある。

 中国を頼みに、自分に反旗を翻すようなことを少しでも企てたらどうなるのか、それを示す見せしめとして、張成沢氏は必要以上に残虐な方法で処刑されたのだろう。

 このような金正恩総書記の中国への恐怖心には、今も根強いものがあると思われる。

 そこで考えられた対処方法が、ロシアへの接近ではないだろうか。