抑止力を働かせる相手は誰か?

  10月31日、北朝鮮は日本海に向け、「火星12型」と呼ばれる大陸間弾道弾(ICBM)を発射した。

 この発射は最高高度8000キロに及ぶ高射角軌道(ロフテッド軌道)で行われたため、射距離は1000キロ程度であったが、通常の角度で発射すれば米国にも到達可能だと言われている。

 北東部の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場では、近々核実験を行うための準備も整ったと報じられており、北朝鮮の核兵器とミサイルの開発は着実に進んでいる。

 金正恩総書記は、このような核・ミサイル開発の狙いを正当な抑止力の強化だと再三述べているが、一体何を抑止しようとしているのだろうか。

 今後見通し得る将来において、米韓連合軍が急遽、半島統一のために北朝鮮に軍事侵攻するという可能性がかなり低いという点は、北朝鮮当局も認識しているであろう。

 おそらく金正恩総書記が現実的に恐れているのは、北朝鮮国内で何らかの反乱が起きた際、それを支援する形で韓国軍が介入する事態ではないかと思われる。

 大韓民国憲法第3条によれば、大韓民国の領土は韓半島全域に及び、建前上は、韓半島に住む人々はすべて韓国の国民である。

 北朝鮮の人々がより良い暮らしを求めて反乱を起こした場合、これを助けるべきだとの声が韓国に湧き上がることは、想像に難くない。

 反乱勢力が北朝鮮の民主化を掲げるならば、なおさらであろう。

 米国は当初は慎重かもしれないが、韓国世論の高まりに押されて、韓国政府が反乱勢力支援のため韓国軍を北進させるならば、在韓米軍もそれを支援せざるを得なくなる。

 韓半島における米韓連合軍と北朝鮮軍の戦力バランスを考えるならば、北朝鮮政府軍の敗北は必至であり、これは金正恩総書記の最期を意味する。

 そのような事態で米韓両国の介入を抑止するというのが、金正恩総書記が言う抑止の一つの実態的な意味だと考えられる。

 そう考えると、今年に入って金正恩総書記が、韓国を統一対象ではなく敵対国であると位置づけ、南北間を繋ぐ道路や鉄道を破壊していることにも納得がいく。

 それでは、その際中国はどう動くのであろうか。