北朝鮮は、無視されるのだったら、どんどん核やミサイルの技術を発展できてよいではないかと思えるかもしれないが、それは違う。「アメリカの脅威」がなくならない限り、北朝鮮の「緊張状態」(1953年に定めた朝鮮戦争の休戦状態)は解けないからだ。無視はしていても、脅威は存在し続ける。
そして緊張状態が解けない限り、北朝鮮は国家のエネルギーを、経済発展に振り向けることはできない。隣の社会主義国・中国は、1979年正月に悲願だったアメリカとの国交正常化を果たしたことで、改革開放政策を始められたのだ。
アメリカ大統領選でハリス副大統領が勝利したら、本人も選挙演説で述べているとおり、「北朝鮮のような国は相手にしない」。そうなると、北朝鮮が核実験を行う「メッセージ性」はなくなる。
だが、トランプ前大統領が勝利したなら、7度目の核実験は大きな「メッセージ性」を持つことになる。すでに冒頭述べたように、10月31日、北朝鮮は精巧なICBMの発射実験に成功している。そのICBMに、小型化された核弾頭を搭載できることを示せば、アメリカ本土まで核弾頭を撃ち込めることになる。
トランプ大統領なら、この脅威を除去するべく、腰を上げるだろう。実際、1期目のトランプ政権は、それを試みてきた。
トランプとの3度の会談を経て金正恩が悟ったこと
2018年6月、トランプ大統領と金正恩委員長は、シンガポールで初めて握手を交わした。1948年の北朝鮮建国以来、不倶戴天(ふぐたいてん)の敵である米朝のトップ同士が会談するのは、この時が初めてだった。
私もシンガポールに取材に行ったが、両首脳が12秒間にわたって「歴史的握手」を交わす間、金正恩委員長の手は震えていた。祖父(金日成主席)と父(金正日総書記)のことが頭をよぎったに違いない。
この時は「アバウトな4項目合意」を行ったが、翌2019年2月の2度目の米朝首脳会談で、合意は空中分解した。いわゆる「ハノイの決裂」だ。同年6月に、南北境界線がある板門店で、両首脳は3度目の短い会談を行ったが、翌年の年初から新型コロナウイルスが世界で猛威を振るい、米朝交渉は雲散霧消した。
金正恩委員長にとって、トランプ大統領との3度にわたる会談の「教訓」は、北朝鮮がもっと核ミサイル能力をアップさせないと、アメリカに舐められる、足元を見られるということだった。そこから北朝鮮は、「アメリカに舐められない軍事技術」に、国家の威信のすべてをかけてきたのだ。