10月27日の総選挙の結果を受け、気になるのは政策運営の影響を受ける金融市場の動向であろう。政策決定の連立方程式は、多くの党派との調整が必要になるため複雑化することが予想される。調整型の政策決定は、過去の事例を見ても時間を要するだけに、天災や紛争、経済危機といった緊急事態への対応力が低下する可能性が高い。2025年初にかけては、米国の新大統領が描く国際秩序の再構築が、国際社会の緊張感を高めるシナリオも否定できないだけに注意が必要だ。
(平山 賢一:東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)
短期金利は「永遠のゼロ」と表現されていたが…
2022年以降のわが国では、為替、物価、株価、金利といった複数の課題を同時に満たす解が、見出しにくくなっている。
株価にとっては、円安を好感するケースが多いものの、過度な円安は物価上昇を通して国民の不満を高めてしまう。デフレ経済下で気にする必要が無かった物価上昇圧力も2022年を境に高まっており、無視するわけにはいかない。
異次元緩和の正常化も、一歩間違えると意図せざる長期金利の上昇や財政危機を発生させ、為替市場や株式市場を混乱させてしまうだろう。国内政治の不安定化は、減税や財政拡大への歯止めが利かなくなるリスクを抱え込むため、国債市場の安定にも気を使う必要がある。
そのため、政治面だけでなく経済面でも複雑な連立方程式を抱えているのが日本の現状と言えよう。今後は、内外の政治情勢が不安定化することが予想される中で、金融市場の安定をどのように図っていくかが重要な課題になってくる。
そこで以下では、総選挙後の金融市場について、市場参加者が前提とすべき変化を改めて確認しておきたい。
第一に、市場参加者にとって従来と大きく異なっているのは、日本銀行が金融政策の正常化に着手しているという前提であろう。
日本銀行は、発表される経済指標次第で正常化のスピードを柔軟に操作する方針であり、従来のように市場参加者が金融緩和のみを前提に将来見通しを描くわけにはいかない。それだけに、金利の方向性を決め打ちできないため、是々非々で政策(短期)金利の見通しを市場参加者は変えていかねばならない。
図1は、2000年12月以降のわが国の長短金利とインフレ率の推移を示したものだが、グローバル金融危機以降、無担保コールレートがゼロ水準に張り付いてきたのが確認できる。
短期金利については、異常なほどに安定した凪のような時代を、われわれは過ごしてきており、一時期は「永遠のゼロ」と表現されたこともあったほどだ。そのため、金融政策の方向が急転換する可能性を考慮する必要はなかった。