2010年代とは異なる金融政策の難易度

 しかし、2022年に入ってから、この状態に変化が訪れたのである。長期国債利回り(10年)は、2度にわたりマイナスになることもあったが、無担保コールレートを上回り、その格差も拡大してきている。

 これは、将来にわたり短期金利が引き上げられていくとの期待を、主に織り込んだ動きと言える。短期金利は、日本銀行により操作されるが、長期金利は市場参加者の期待に基づき変化していくため、将来を織り込んだ結果である。

 それだけではない。

 第二に、市場参加者は、図1からも理解できるように、消費者物価指数(年率)が2%を上回っている状態が続いている点も前提にすべきだ。

 これまでは、一時的に2%を上回ることはあっても1年を超えて続くことはなかった。2008年は主に原油価格の上昇の影響もあり、2014年は一時的な消費税引き上げの影響であった。

 しかし、直近は、2022年4月に2%を上回って以降、2年半にわたり一度も2%水準を下回っていない。2022年以降は賃金の上昇も伴い始めただけに、金融市場の見通しを描く上でインフレ率の動向を無視するわけにはいかなくなっている。

 2010年代と異なり、これまで勘案する必要性のなかった「インフレ率という変数」も考慮しなければならないのは、市場参加者だけでなく政府も同じである。

 政策決定の際に考慮すべき変数が一つ増えたため、ソリューションを導き出す難易度は、格段に高まっているわけである。政策決定の方向性も、2010年代の異次元緩和時代とは、比較にならないほど不透明になっているのである。