今のところ日本の信用度を示すCDSは落ち着いているが…
ところで、この30年国債と10年国債の利回り差は、米国よりも日本が大きく上回るようになっている。日本国債の利回り差は、2022年以降急上昇しており、過去20年間で最高水準である1.2%程度まで上昇し、米国の4倍になっているのである。
今のところ、日本の信用度を示すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は落ち着いた動きになっているが、少数与党が政策調整に要する財政負担(大盤振る舞いの減税など)が巨額化すれば、思いのほか超長期金利が上昇する可能性もある。部分的に連立を組む政権では、財政拡張を通した国債市場の混乱リスクを内包しているからだ。
奇しくも日本銀行は、2024年7月に国債買い入れの減額方針を示しており、国債消化の不確実性も増している。日本銀行は、国債買い入れによる長期金利の押し下げの影響を楽観視しているが、買入減額による国債需給の変化の影響は想定以上に大きいとの意見もある。
日本国債市場では、機動的な売買に終始する海外投資家の関与が大きくなっているだけに、意図せざる長期金利、超長期金利の上昇が発生する可能性は低くない。市場参加者は、脆弱な政治状況が、住宅ローン金利や企業の借入金の上昇を介して企業や国民生活に打撃を与えるシナリオを真剣に懸念すべきかもしれない。
ただでさえ、わが国の場合には、時間のかかる金融政策の正常化に踏み出したばかりであり、総選挙後に複雑化した政府の政策決定メカニズムとのボタンの掛け違いが発生しやすくなっている。
政治と経済の連立方程式を同時に解く難易度は、思いのほか高いと言えよう。政策決定の揺らぎは、金融市場の不安を増幅させ、金融危機に直結しやすいだけに注意が必要だ。
※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。YouTubeで動画シリーズ「ハートで感じる資産形成」(外部サイト)も公開しています。
平山 賢一(ひらやま・けんいち) 東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト
1966年生まれ。資産運用会社を経て、1997年東京海上火災保険(現:東京海上日動火災保険)に入社。2001年東京海上アセットマネジメントに転籍、チーフファンドマネージャー、執行役員運用本部長を務め、2022年より現職。メディア出演のほか、レポート・著書などを多数執筆。主著に『戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット』(日本経済新聞出版)、『物価変動の未来』(東峰書房)などがある。YouTubeで『ハートで感じる資産形成』シリーズの発信もしている。