結婚してからも、あれこれ言い訳して田辺に寄り付こうとしなかった早貴被告に野崎氏は騙されているのではないかと、佐山さんは当初から疑っていたようだ。田辺に来てからも早貴被告は、自宅からわずか3分のところにあるアプリコで、仕事を手伝うどころか、従業員に挨拶もせず、タブレットでゲーム三昧だった。アプリコの従業員たちは早貴被告のことを快くは思っていなかった。

野崎幸助氏の葬儀で喪主として挨拶する早貴被告(左)とお手伝いの大下さん(仮名)(撮影:吉田 隆)
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 そして野崎氏が怪死した翌日の午後、早貴被告はアプリコの事務所に現れた。そして佐山さんに驚くべきことを告げた。

「(社長の)遺骨も要りませんし、お墓も守ることはできないので要りません。2億円(どこから出てきた数字か?)貰ったら帰京しますから」

 亡くなった野崎氏は、早貴被告を含め3回の結婚歴があった。前回の記事で触れた2番目の妻Cさんは、野崎氏と離婚する際におよそ2億円を手にしたと早貴被告は聞かされていたようだ。そこから「2億円」という金額が出てきたのだろう。

 また、おカネの出し入れは経理担当の佐山さんが任されていることを知っていたのだろうが、夫が亡くなってから24時間も経っていない時点でのこの発言には佐山さんは仰天した。そして、その申し出がいかに常識外れなのか早貴被告に告げた。だが、馬の耳に念仏状態だったという。

遺産相続に注力しだした早貴被告

 それから少し時間が経った6月中旬のことだ。このころまでには野崎氏の死因が急性覚醒剤中毒ということを警察も認め、野崎氏が何者かによって覚醒剤を摂取させられ殺害された疑いが濃くなっていた。そうした中で、早貴被告に疑いの目を向ける報道も出始めていた。

 そうした中、早貴被告は中傷記事を掲載されたとして、複数の週刊誌を名誉棄損で訴える準備をはじめた。そこで都内の弁護士事務所と契約したのだが、弁護士の関心は名誉棄損裁判ではなく、早貴被告の遺産相続にあったようだ。野崎氏の個人資産は数十億円あると目されていた。それを早貴被告が相続できれば、弁護士としてもおいしいビジネスになる。

 ただし野崎氏の個人資産は遺産分割協議がまとまっていなかったので凍結され動かすことはできなかった。そこで目をつけたのは、アプリコにあった約2億円の資産である。

 まず弁護士は、アプリコは清算することを前提として、早貴被告を社長にし、従業員は、残務整理のために残るマコやんと佐山さん以外を全員解雇してしまった。

 もっともこれは、アプリコと弁護士が業務委託契約を結んでいたわけではないので、違法な介入である。早貴被告の社長就任についても、アプリコの役員たちに告知もされていなかった。後日、マコやんの名で刑事告発し、弁護士や早貴被告たちはこの件で書類送検される結果となった。

 それでも早貴被告がアプリコの社長に就任した直後、佐山さんに早貴被告の弁護士から佐山さんに対して、早貴被告の口座に7000万円――正確にはそこから税金を差し引いた3800万円――を早貴の口座に振り込むよう依頼が来た。

 当然のことながら佐山さんは「何のおカネですか?」と尋ねた。

「生前、野崎さんがアプリコから得ていた報酬を、新たに社長となった早貴さんも受け取る権利があります」

「社長はアプリコから報酬はもらっていませんが……」

 佐山さんは納得できなかったが、税金分を引いた3800万円を早貴被告の口座に振り込んだ。さらに手数料名目で弁護士事務所にもカネを振り込んだ。11日の公判で佐山さんはこのような経緯を明らかにしたのだった。

 公判で明らかになる、野崎氏没後の早貴被告の行動。アプリコ従業員の証人出廷はまだ続く予定だ。