ホルムズ海峡封鎖はこうして起きる

 イラン産原油の積み出しはペルシャ湾に浮かぶカーグ島で実施されてきたが、積み出しの中心をオマーン湾に面するジャスク港に移す作業を本格化させている。同港の積み出し能力は日量100万バレル、イランの輸出量(同170万バレル)の半分以上をカバーすることができる。同港から9月中旬に約200万バレルの原油の積み出しを実施している*2

*2Iran Readies New Oil Outlet To Bypass the Strait of Hormuz(10月18日付、OILPRICE)

 このことは、イランが原油供給のチョークポイントであるホルムズ海峡を回避できる輸送手段を確保したことを意味する。カーグ島が攻撃されたとしても、イランの原油輸出へのダメージは限定的なものになるだろう。 

 むしろ、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)への打撃の方が大きい可能性がある。カーグ島が攻撃されれば、ジャスク港の活用で「後顧の憂い」がなくなったイランはホルムズ海峡の封鎖に踏み切るかもしれないからだ。そうなれば、ペルシャ湾で船舶の航行に混乱が生じ、サウジ、UAE両国からの原油輸出が一時的にストップする事態になりかねない。

 日本の原油輸入(今年8月)に占めるサウジアラビアのシェアは39%、UAEは45%だ。両国の原油は100%、ホルムズ海峡を通過している。

「備えあれば憂いなし」。日本政府は国家石油備蓄の放出に向けた準備を直ちに進めるべきではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。