全く予測していなかった快挙に、韓国では「ハンガンの奇跡」と歓声が上がった。詩人で小説家の父親の韓勝源(ハン・スンウォン)氏が「呼びやすい名前が一番良い名前だ」という理由でつけた「ハンガン」という名前は、ソウルを横切る巨大な漢江と発音が同じ。60年代~80年代にかけて、朝鮮戦争の廃墟からわずか20年で100倍以上の超高速経済成長を遂げた韓国の姿を、海外では「漢江の奇跡」と驚嘆したが、韓江氏のノーベル賞受賞は韓国人にとってこれに並ぶほどの「奇跡」なのである。

ソウルの自宅近くの街角で佇む韓江さん(写真:TT News Agency/アフロ)
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韓国中で爆発する喜び

 メディアも興奮を隠せなかった。

「韓国文学は100年以上近代文学を蓄積してきたと自負したが、今までノーベル文学賞とは縁がなかった。2000年代初め以降、高銀氏が常連の候補として取り上げられたが、そのつど失敗に終わった。隣国の日本の川端康成(1968年)、大江健三郎(1994年)に続き、2012年に中国の莫言が受賞の栄誉を抱いた時、私たちは羨望を飲み込まなければならなかった。韓江の今回の受賞で(韓国は)『韓中日ノーベル文学賞三国志』で堂々と一つの軸を占めることになった」(『中央日報』社説「韓国人ノーベル文学賞受賞快挙、K文学跳躍の契機にするべき」)

「韓江のノーベル文学賞受賞の意味は格別だ。作家個人の文学的力量に劣らず、韓国文学の水準と深さに対する世界の関心と評価を物語っている。これはまた、K-POP、ドラマなどをはじめとする韓国文化の世界化がその底辺にあると見られる」(『韓国日報』社説「韓江のノーベル文学賞快挙…韓国文学の世界化が続くことを祈る」)

「決して認めたくなくても、皆は内心『ノーベル文学賞コンプレックス』に苦しめられてきた。“日本は(受賞者が)満ち溢れていて、中国も受賞したのに、なぜわれわれはダメなのか”という悔しい質問だ。初のノーベル文学賞受賞は、韓国文学と世界文学の間に落差がないことを証明する記念碑的な変曲点として記録されるだろう。今や世界が韓国文学を眺める状況になった。今や私たちが中心となった」(『毎日経済』「ノーベル賞コンプレックスを終わらせてしまった」)

 尹錫悦大統領をはじめ、政治家たちも祝賀メッセージを送った。

「大韓民国文学史上の偉大な業績であり、全国民が喜ぶ国家的慶事」(尹錫悦大統領)

「喜びの戦慄が全身を包み込むニュース」(李在明「共に民主党」代表)

「もう、私たちに不可能と限界はないということを見せてくれた」(秋慶鎬「国民の力」議員)

「ハンガン作家の端正で鋭い、それで“ろうそく”のような文章が全世界に光を輝かせた日」(曺国チョグック新党代表)

 長引く不況にあえぐ韓国出版界には、「ハンガンルネサンス」の波が到来した。韓氏のノーベル賞受賞後、彼女の小説は6日間で100万部の販売を突破した。韓国で、小説として100万部突破の最短記録は村上春樹の『1Q84』だった。

 韓江の著書が各書店の1位から10位を総ナメにし、最も本を読まない世代といわれる50代までも読書ブームに加わった。突然の読書ブームに坡州・出版団地内の印刷所では徹夜作業を続けているといううれしいニュースも伝えられた。

韓国の書店に登場した韓江さんのノーベル賞受賞を祝うディスプレイ(写真:Lee Jae Won/アフロ)
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 他にも、中古ECサイトでは韓江さんの各作品の初版本が数十万ウォンで取り引きされており、株式市場では韓国最大のオンライン書店「YES24」など出版関連柄の株価が急騰している。