「ブラックリスト」作家の受賞に保守層が反発

 ただ、この国家的な慶事のさなかにも、分裂した韓国社会の姿が垣間見える出来事もあった。保守層の一部から、韓江さんのノーベル賞受賞を非難する声が出ているのだ。

 ある保守団体は、駐韓国スウェーデン大使館前で「歴史歪曲作家にノーベル文学賞を付与したスウェーデン・アカデミーを糾弾する」というデモを行った。韓氏の著書の中で、5・18光州民主化運動を扱った『少年が来る』と、4・3済州事件を扱った『別れを告げない』が「歴史を歪曲した」と主張しているのだ。

 光州民主化運動は、全斗煥政権の戒厳令に反発する光州の大学生たちと市民で構成された市民軍が政府軍に抵抗した事件で、光州広域市の集計によると、163人の死亡者をはじめとする5000人規模の民間人犠牲者が出た。

 済州事件は、朝鮮戦争直後の李承晩政権時代、北朝鮮の指令を受ける南朝鮮労働党を掃討するという名目で長々と7年間にわたって済州で起きた政府軍による武力鎮圧事件で、民間人犠牲者が2万人を超えると知られている。

 ところが両事件に関して、保守層の一部からは「南に派遣された北朝鮮軍が市民の中に混ざっていたため、仕方なかった」という主張が絶えず上がっているのだ。その主張に、韓江さんの作品の中の描写が一致しないということなのだ。韓江氏が朴槿恵政権時代に、左派に分類され「文化人ブラックリスト」に名が刻まれた理由も、このような見解が保守圏に根強く存在しているためだ。