ドイツの鉄道推進団体「プロ・レイル・アライアンス」によると、ドイツの鉄道インフラにかける国民一人当たりの投資額は2023年に115ユーロで、近隣国スイスの477ユーロ、オーストリアの336ユーロに比べてはるかに少額だった。2021年以降、少しずつ投資が増えて今の金額になったが、それ以前は長年今の3分の2以下と、経済規模がドイツより小さいイタリアよりも少なかったのだ。

 その背景にあったのは、自動車と道路インフラが鉄道より政策的に長年優先されてきたためだと、ベルリン社会科学センター(WZB)のモビリティ研究者であるアンドレアス・クニー氏は、独メディア「ドイチェ・ヴェレ」に答えている。多額の補助金を受けた高速道路では通行料を払う必要がないのに対し、鉄道は線路を通行するのに使用料を支払うという差がある。

 機能不全の鉄道を改善するため、連邦政府は2024年から4年間で450億ユーロをかけ、2030年までに40の主要路線、合計約4200キロメートルを大改修する計画を発表した。すでにフランクフルトから南西部のマンハイム間という主要路線が改修工事中で、5カ月間閉鎖の末に近代化される予定だ。2025年はベルリンとハンブルクの間の280kmなどの主要区間で工事が行われ、線路、架線、スイッチ、信号などが交換される。工事中は数カ月間、乗客は代替バスを使って移動することになり、不便を強いられる。

 しかし、連邦政府は、当面予定された鉄道の大改修に際して、いまだに資金源を確保できているわけではない。連邦政府が100%保有しているドイツ鉄道の株式を売却して資金を調達する可能性も指摘されているが、まだ答えは出ていない。ドイツ鉄道の財務状況も悪く、今年上半期、同社は12億ユーロを超える損失を計上しており、すでに負債が340億ユーロにまで拡大している。債務削減のために、稼ぎ頭であった子会社の物流会社DBシェンカーをデンマークの輸送会社DSVに143億ユーロで売却することが最近発表された。

必要投資を制限対象に含めるべきか

 政府がインフラ改修に消極的だったのは、目に見えない老朽化に投資をする政治的インセンティブが欠落していたためだ。ドイツのインフラ財政に関して新著で書いている経済政策の専門家、フィリッパ・シグル=グレックナーは、独誌「シュピーゲル」に、これまで交通インフラの予算は削減されがちだったと答えている。

 インフラ建設には時間がかかるため、対応しても次の選挙で有利になるわけではない。問題が注目される前に大規模に工事をして通行止めなどにすれば、国民からは逆に不評を買ってしまう可能性がある。そうして1990年代以降、交通インフラの改修は後回しにされていった。

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