一方、崩壊したカローラ橋も含め、連邦政府ではなく自治体などの管轄下にある橋はそれ以外に9万ほどある。2023年の「ドイツ都市問題研究所」による調査では、これら自治体の管理下にある橋の半分の状態が悪いと報告されている。ドイツ最大の環境NGO「ドイツ環境自然保護連盟(BUND)」によると、1970年代末から、橋の耐用期間は50年程度で徐々に大規模改修が必要になると専門家は指摘してきたが、予算は分配されず、必要な対応は取られなかった。そのために全土の橋の状態が徐々に悪化し、崩落という最悪の事態が起きてしまったようだ。
高速道路の半分が要改修、鉄道は遅延が日常茶飯事
なお、ドイツで老朽化しているインフラは橋だけではなく、道路や鉄道も大幅な改修を必要としている。今年5月の連邦運輸省による回答では、2021〜22年の調査で、高速道路は7100km以上と全体の約半分、鉄道網は1万7000km以上と全体の4分の1超に改修が必要と判断された。
それに加え、前述の「ドイツ都市問題研究所」による調査では、自治体が管理する70万km以上の一般道路の3分の1の状態が悪く、2030年に寿命を迎えると判断されている。その改修だけで2800億ユーロ程度が必要となると算出された。
必要な改修が先送りにされてきたため、そのツケが回り、一気に多くのインフラが寿命を迎えつつあるというのが現状のようだ。
特に近年問題視され、大規模改修がやっと始まったのが、国営のドイツ鉄道である。気候変動の深刻化によって飛行機や自家用車よりも鉄道での移動が奨励される一方、ドイツでは都市間鉄道の遅延や運休が日常茶飯事になっている。
2024年8月、定刻より15分以上の遅れで目的地に到着した長距離列車は約4割、6分以上の遅れで到着した近距離電車が約1割にも及んだ。都市間を走る電車が時間通りに動かず、頻繁にキャンセルされるために車を手放せないという人は少なくない。筆者も乗る予定の電車のキャンセルや、大幅な遅れによって乗り換えできず、目的地に1〜2時間遅れで到着というのを頻繁に経験している。電車移動には毎回1時間ほど余裕を持たせるようになった。
そんなドイツの鉄道の質の低さは、2024年6月、ドイツでサッカー欧州選手権が開催され、欧州中から人々が集まったことで各国の注目を集めた。同大会中、CO2削減のためにファンや選手、関係者は鉄道移動を奨励されたものの、電車の遅延やキャンセルによって大混乱が相次いだ。ファンが試合に間に合わなかっただけでなく、電車遅延のためにオランダの選手団による記者会見や、解説者によるテレビの実況解説のキャンセルが続いたのだ。その惨状はソーシャルメディアを騒がし、各国のメディアでも報じられることとなった。
資金源が不明確なまま大改修が始まった鉄道
ドイツ鉄道もまた長年の投資不足によって、信号機や踏切、スイッチ、線路が老朽化し、スムーズに運行ができなくなっているという。1990年代、株式会社化されたドイツ鉄道では効率性が重視されるようになった。不採算路線が閉鎖され、交通量は旅客、貨物輸送とともに大幅に増えたが、それに合わせた設備投資はなされなかった。線路の本数も増えず、混み合っているために一本の電車が遅れれば渋滞のようになり、他の運行便にも影響が及ぶ。
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