「大沢に戻りたい」、でもやはり難しい

 10月5日の清掃作業は午前中から始まり、18時すぎに終了した。橋浦さんは「ボランティアの方に頼り切ってしまい、申し訳ない。でも、本当にありがたい」と語った。事務所は今後、専門業者にもう一度清掃を頼んだうえで、建築士に工事を依頼するという。 

泥をかき出すボランティア。写真は門前町深見

 橋浦さんは現実的には大沢町に帰ることは「もう難しいだろう」とも語る。7月まで停電・断水状態が続いており、いまだに道路も復旧していない。仮に自宅に帰れたとしても、義父の年齢や子どもの進路、自身の仕事などを考えると大沢町には戻れないのだ。

 一方で、橋浦さんの娘さんは「大沢に戻りたい」とつぶやくことがあるという。

「自宅近くに『桶滝』という天然記念物があります。岩場にあいた丸い穴の中から水が流れ落ちている珍しい滝で、その穴の中から山道まで歩いていけるのです。娘はしきりに『でも、桶滝にも行けるやろぉ』と思い出すようにつぶきます。大人にとって大沢は『現実的な事情からもう戻れない地域』でも、娘にとっては『自分を形作る原風景』なんだと思います」

 橋浦さん一家は、大沢町は難しいとしても、今後も輪島市には住み続けたいと願っている。