ステークホルダーとの利害関係が複雑なコンビニビジネス

 9月の下期以降、SEJが継続的な反転攻勢に転じることができるかはまだ日が浅く未知数だが、もう1点、セブン&アイHDがコンビニ専業となって正式にセブン-イレブン・コーポレーションに移行して以降も、果たして株式上場を現状のまま維持していくのかも気になるところだ。

 同業のFMは2020年11月に、ローソンも今年7月に上場廃止となっている。上場廃止というと一見、経営破綻や業績不振による退場というイメージが強いが、最近は短期の市場評価を気にせず、意思決定の迅速化を図って事業に専念できるとして、積極的に非上場化を選ぶ企業も増えてきた。昨今の円安下では海外企業による買収リスクも上がるため、その防衛的な意味合いもあるかもしれない。

 例えば今年に入ってからも、大正製薬ホールディングス、ベネッセホールディングス、永谷園ホールディングスの創業家が投資ファンドらと組み、MBO(経営陣による自社買収)によって非上場化を選択している。ただしセブン&アイHDの場合、時価総額が約6兆円(10月11日時点)と大きいため、前述の企業群と同じような比較はなかなか難しい。

 それでも、伊藤忠商事によってほぼ完全子会社化されたFMや、三菱商事の単独経営からKDDIとの折半出資による共同経営に変わったローソンは、非上場化によって以前よりも経営の自由度が増したことは間違いない。一方、セブン&アイHDはこれまで特定の資本系列下にはなく、それが全方位外交の強さになった点もあるのだが、上場企業ゆえのコストや制約も少なくない。

 上場企業が相対するステークホルダーは、株主、従業員、取引先、消費者(ないし法人顧客)、地域コミュニティーといったところだが、ファミレスのロイヤルホストや天丼のてんやなどを運営する、ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長は以前こう語っていた。

「企業が成長している時は全てのステークホルダーの満足度が上がる。新しい店ができてお客さまが喜び、従業員も昇格してボーナスも増えるし、株主の利益も増え、取引先も一緒に成長できる。

 反対に成長が鈍化して生産性が低下してくると、全てのステークホルダーが不満足の状態になる。お客さまからすれば店のクオリティーが落ちたと映り、店長たちはボーナスが増えない、株主の利益も上積みがない、取引先も値引き交渉ばかりという負の連鎖に陥ってしまう。そこで終わればまだいいほうで、負の連鎖が続くと分配する原資が小さくなってしまい、ステークホルダー間で利害対立が起きるのです」

 ロイヤルホストは直営の店舗が多く、てんやも直営店がかなりを占めるのに対し、コンビニの場合はフランチャイズ店が圧倒的に多い。よって前述したいくつかのステークホルダーにFC加盟店も加わることとなり、その分、利害対立はより複雑になりやすい。