資本政策再考、非上場化というオプションの可能性

 セブン&アイHDと買収提案したクシュタールの攻防の行方によっては今後、敵対的買収の可能性も出てくるが、その場合はホワイトナイト(ほかの友好的な買収)の登場も考えられ、FMにおける伊藤忠商事やローソンにおける三菱商事、KDDIのような大手企業による巨額資金の出し手が必要になる。

 FM、ローソンの2社が大手商社の資本を仰いでいることを考えると、セブン&アイHDに1.8%のマイナー出資ながら大株主の1社に名を連ねる三井物産の動向も気になるところで、三井物産とは事業的な取引関係もある。

 また、現在は多くの企業が自前主義のこだわりを捨てるオープンイノベーションの時代だが、三菱商事の中西勝也社長もローソン、KDDIとの共同会見の際、「ファイナンス、IT、ロジスティクス、マーケティングの頭文字からわれわれは“FILM戦略”と呼んでいましたが、それらをローソンとの協業で強化していく中でIT、とりわけ通信分野が足りていなかった」と、KDDIをパートナーに迎え入れた理由を語っていた。

 翻って、セブンPayなどのDX戦略も含め、ITや通信分野のビジネスでこれまでつまずきが多かったセブン&アイHDもこうした分野が得手とは言えず、KDDIのようなパートナーが今後必要になる局面があるかもしれない。

 さかのぼると2017年末には、当時のユニー・ファミリーマートホールディングス(現FM。以下UFMHD)に対し、ソフトバンクグループ率いる孫正義社長が伊藤忠商事の岡藤正広社長(当時。現会長)と面会し、UFMHDの買収提案を申し入れたこともあった。

 この提案には岡藤氏が応じず、翌2018年に伊藤忠商事がUFMHDを子会社化して幻となったのだが、先々、ソフトバンクグループやNTT陣営が、ローソンとKDDIの関係のように新生セブン-イレブン・コーポレーションに接近したとしても不思議ではない。

 コンビニ業界は2018年から2019年にかけ、当時の人手不足も絡んで24時間営業問題が話題となり、FC加盟店のオーナーとの軋轢や対立も表面化するケースが増えていた。

 それまでSEJは1000店近い純増ペースで店舗数を拡大していたが、2018年度以降は急速にペースダウン。セブン-イレブンの店舗数は2018年度に2万876店だったが、途中コロナ禍があったとはいえ、5年後の2023年度でも2万1533店と微増にとどまっており、今後も店舗拡大余力は小さく、コンビニは成熟産業化してきた。

 昨今の物価高騰の出口もいまだ見えない。FCビジネスということもあって定価販売を基本としてきたコンビニは、特に主婦層のシビアなコスパ意識にさらされながら、食品スーパーやドラッグストアなど、価格競争力で勝るところに売り負けない工夫が継続的に求められる。

 また、繊維部門が強い伊藤忠商事のノウハウや取引先ルートの豊富さを利して、FMでは近年「コンビニエンスウエア」のラインアップや売り上げが伸長。ローソンもKDDIが親会社に加わったことで「リアルテックコンビニ」を掲げるなど、従来のコンビニ企業間の同質化競争とは少し離れつつある。

 上場企業であれば株価やROIC(投下資本利益率)をはじめとした経営指標の向上を常に意識し、実態としてはステークホルダーの中で株主の優先度がかなり高くならざるを得ない。FMやローソンと同じようにコンビニ専業となるセブン-イレブン・コーポレーションも、どこかの段階で資本政策を抜本的に再考し、非上場化というオプションも検討する余地はあるのではないだろうか。

イトーヨーカ堂をはじめ、コンビニ以外のグループ会社を一気にヨークHDに切り出したセブン&アイHDイトーヨーカ堂をはじめ、コンビニ以外のグループ会社を一気にヨークHDに切り出したセブン&アイHD(写真:共同通信社)

【河野圭祐(かわの・けいすけ)】
経済ジャーナリスト。1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。これまで自動車、商社、流通、食品、不動産、ホテルなど幅広い業界を取材し、経営者インタビューの実績も多数。