ディープラーニングの原点も「大阪」にあり
福島邦彦とネオコグニトロン
ヒントン博士たちの名が一般にも広まった一つの端緒は「深層学習 Deep learning」の成功(2006) で、これ以降、ヒントン研究室OB・OGがビジネスを含むAI界を牽引し、2012年のグーグル・キャット以降であるのは周知かと思います。
しかし、この「深層学習」という発想もまた、日本人研究者が、ヒントン博士たちの試みの30年近く前に、大阪(当たり前ですが、日本です)で発想、実装し実現していたものにほかなりません。
開発されたのは福島邦彦博士です。
当時、NHK大阪技研に勤務しておられた福島先生は、デイヴィッド・ヒューベルとトールステン・ヴィーゼル両博士による、視覚認識の階層型ニューラルメカニズム(1981年ノーベル医学生理学賞)を参考に、全く独自に多層・畳み込み型ニューラルネットワーク「ネオコグニトロン」をまず理論的に確立(1978)。
次いで、実装(1979)リンクの論文は1980年ですが、いずれにしても1970年代、「第1次」と「第2次」のグローバルなAIブームの谷間にあって、日本人研究者が営々と基礎研究を継続する過程で創り出した、世界史に残る金字塔にほかなりません。
明らかに世界で最初の「ディープラーニング」システムは、日本・大阪で、ヒューベル+ヴィーゼル両氏の業績を基に福島先生が独自に考案された完全なオリジナルです。
ちなみに私の本「日本にノーベル賞が来る理由」に始まる一連のノーベル賞原稿は、本連載の原点、日経ビジネスオンライン「常識の源流探訪」から始まりました。
その主要な「ネタ元」は、実はヴィーゼル先生その人であります。
スウェーデン人超大物ノーベル賞受賞者として、ヴィーゼル先生は大江健三郎氏への文学賞授与など、財団側の様々なバックヤードに関わってこられました。
今年100歳、いまもお元気ですが、すでにノーベル賞の選考からは外れておられます。
もしヴィーゼル先生が関わっておられたら、こんなみっともないノーベル物理学賞は決して認めることがなかったでしょう。
ノーベル賞は「本当の原点」を創始したパイオニアに授賞することに、ある矜持をもっていました。
分かりやすい例は、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんのケースでしょう。
当時の委員会は良心的に、また徹底してバックグラウンドで調査を行い、本当に最初の貢献を成し遂げた人を割り出し、彼/彼女を正当に評価することに誇りを持っていた。
島津製作所の田中さんとしては青天の霹靂だったと思いますが、それがノーベル賞の美点であった。
しかし、今のノーベル財団や選考委員会は、それとは違う計算をするようになったように見受けます。