道長はなぜ彰子から敦康親王を遠ざけたのか

 また今回の放送では、彰子が敦康親王(あつやすしんのう)と親しくする様子を、道長が見つめるシーンもあった。

 敦康親王は、一条天皇と亡き中宮の定子との間に生まれた第1皇子だ。彰子は自身が第2皇子にあたる敦成親王を産んでからも、養母としてこれまでと変わらず、敦康親王と親しく接してきた。

 そのことが道長は急に不安になってきたらしい。放送では、道長が『源氏物語』を熱心に読むシーンがあったが、読んでいたのは「桐壺巻」だった。

「桐壺巻」の物語では、幼少時の光君が、亡き生母の桐壺更衣(きりつぼのこうい)の代わりに後妻である藤壺を慕い、そのことが後の禁忌を生み出してしまう。道長は、彰子と敦康親王の姿を見て、光源氏と藤壺のようなことが起きるのではないかと、心配したのである。

『光る君へ』の道長は、傲慢なキャラクターではないだけに、第1皇子の敦康親王をどのように遠ざけて、自身の孫・敦成親王の方に皇位を継承させるのかがポイントのひとつとなる。『源氏物語』があらぬ不信感を生んだというのは「物語の力」を改めて実感する興味深い展開だ。

 敦康親王の運命やいかに。次回「とだえぬ絆」の放送を待とう。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。