今回は、大河ドラマ『光る君へ』において、まひろ(紫式部)の弟・高杉真宙が演じる藤原惟規を取り上げたい。

文=鷹橋 忍 

宇治川のほとりにある紫式部像 写真=kamogawa/イメージマート

紫式部の弟、それとも兄?

 藤原惟規は、岸谷五朗が演じる藤原為時の長男である。

 母は藤原為信の娘(ドラマでは、国仲涼子が演じた「ちやは」)で、紫式部の同母弟とされる。

 だが、惟規も紫式部も生年は不詳であり、惟規を紫式部の同母兄とみる説もある(ここでは、ドラマと同じように、紫式部の同母弟説を採る)。

 惟規と紫式部の母は、惟規を出産して間もなく、亡くなったらしい(今井源衛『人物叢書 紫式部』)。

 

耽美的な歌人?

『紫式部日記』には、少年時代の惟規が、漢籍(中国の書物)を素読・暗唱していた時、傍らで聞き習っていた紫式部のほうが、不思議なほど習得が早かった。

 そのため、学問に熱心であった父・為時は、「この娘(紫式部)が男子でなかったことが、私の不幸だ」と、いつも嘆いていたという、有名な逸話が記されている。

 漢籍はあまり得意ではなかったかもしれないが、惟規の歌人としての力量は確かであった。

 惟規の歌は『後拾遺和歌集』など多くの歌集に収められている。

 家集『藤原惟規集』には、耽美的な歌が残っており、性格も耽美的な享楽者だったようである(今井源衛『人物叢書 紫式部』)。

 また、歌から朗らかで軽妙な人柄らしかったことが、読み取れるという(紫式部著/南波浩校注『紫式部集紫式部集 付大弐三位集・藤原惟規集』)。

 ドラマの惟規のように、楽観的で飄々とした人物だったのかもしれない。