再び顔を出そうとしているリセッション不安

 2024年に入ってからの域内成長率が復調傾向にあった背景には、インフレピークアウトによる実質所得環境の改善とパリ五輪特需を受けたインバウンド需要(サービス輸出)の増加などが寄与していたと考えられる。

 実際、直近2四半期の成長を支えていたのは純輸出である(図表⑤)。

【図表⑤】

ユーロ圏実質GDPの寄与度
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 現状はその剥落に加えて、財政・金融政策の引き締め効果が域内に浸透しつつあるというのが現状なのだろう。

 過去2年間で大幅に利上げを行った金融政策、2024年に入り運用が再開された安定・成長協定の下での財政政策が民間部門の消費・投資意欲を圧迫していると考えられる。

 本来、賃金上昇が落ち着く中で企業収益の圧迫も収まり、家計部門の勢いが取り戻されるかと思いきや、成長のエンジンであるべきドイツがエネルギーコストの高止まりを受けて浮揚できていないことで域内全体の足取りを重くしていそうである。

 インフレピークアウトとパリ五輪という二つの追い風が去ろうとしている中、2022~2023年の域内を覆ってきた慢性的なリセッション不安が再び顔を出そうとしている。

 もっとも、利上げと利下げの狭間で葛藤を強いられる「不況下の物価高(スタグフレーション)」と比べれば、域内全体が押し下げられるような状況の方が政策運営の難易度は低い。ECBとして採るべき選択肢がクリアになった(利下げの迷いがなくなる)分、不透明感は後退したとも考えられる。