ロシアにとっての「大惨事」

 日本同様、ロシアも少子化問題に直面している。今年7月、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、出生率が1.4に低下したことを受けて、同国における「大惨事」であると発言している。少子化問題は日本を含む先進国で顕著となっているが、ロシアでは旧ソ連崩壊後の混乱期における出生率低下の影響により、いま、出産適齢期を迎えている女性が減少したことが一因とされている。

 その上、3年目に突入し、現在も全く終わりの見えないウクライナ侵攻により、多数の若い男性が前線で戦うか、戦死している。米ニューヨーク・タイムズ紙は、死者の数が西側の推計で1日1000人に及ぶとした。

 子供を増やしたいプーチン氏の狙いは、西側諸国から孤立する経済を支えること、移民への依存を減らすこと、そして、将来の戦力を確保することだという*5

*5How Russians Serve the State: In Battle, and in Childbirth(The New York Times)

 つまり、長期的には、戦場に送る兵士の「増産」を目的とした少子化対策と言えるのではないだろうか。

 ニューヨーク・タイムズ紙はまた、9月に兵士を18万人増員し150万人とするよう命じたプーチン氏の目標が、専門家により「非現実的」とされていることを報じている。専門家は取材に対し、ロシアの人口減少により兵力はもちろん、武器や装備を大量生産できる労働力を確保することも困難だろうと指摘している。

 今年8月の米シンクタンク・大西洋評議会の報告書によれば、2022年2月当時、ウクライナ侵攻によりあらゆる年齢層のロシア人が大量に国外流出した。その後、同年9月の予備役の部分的動員により、さらに数万単位の若い男性がロシアを後にしたと指摘している。

 報告書によれば、流出した人口の正確なデータは存在せず、例えば現在ドバイに滞在するロシア人の数が70万人と公式に登録されていれば、実際の数は100万人をはるかに超えるだろうと試算している*6

*6A Russia without Russians? Putin’s disastrous demographics(Atlantic Council)