証言台と傍聴席はパーティションで遮断されていたのでYの姿をうかがうことはできなかった。Yはべらんめえ口調でしゃがれた声だが、客は「女性で身長164センチか165センチくらい」だったと述べた。早貴被告の身長は“自称”167センチだ。大きな矛盾はない。

 証人Yの売人仲間と早貴被告の携帯電話との間に、4月7日の午後7時ごろ、さらに8日0時すぎに通話の履歴が残っていたことでYの存在が浮上したようだ。

 覚醒剤を手渡す際、証人Yは女性から「旦那に知られないようにしている」という話を聞いた。また女性が普段から覚醒剤を使用しているようには見えなかったし言動もしっかりしていた、などと証言した。

家族に漏らしていた「カネ目当て」の結婚

 前出の吉田氏はこの件について以下のように推理する。

「売人の証言内容から考えると早貴被告が覚醒剤を購入したのは間違いないと思いますが、今後、早貴被告側がどのような言い訳を用意してくるか分かりません。購入自体を否定するのか認めるのか。そこが大きな壁になります。

 4月8日の深夜に早貴被告が売人と接触しに行ったとすれば、当時、自動車教習所に通っていた早貴被告は車の免許を持っていなかったので、自宅から徒歩でいける範囲の場所で落ち合ったのではないでしょうか。とすれば早貴被告は覚醒剤の購入を否定する可能性もありますが、警察はすでに防犯カメラ映像を抑えているかもしれない。今後、早貴被告が購入を否定すれば『じゃあ、コレはなんですか』と検察に追い詰められる可能性もあります」

 またこの日の第7回公判では早貴被告の母親と姉に対する警察の取り調べ調書とLINEのやりとりが証拠として提出された。

 2人の供述調書によると、母も姉も、早貴被告が野崎氏と結婚したことを、事件後に記者から聞いて初めて知ったとしている。が、それは素直に受け入れることはできない。

 というのも、アプリコの従業員が、早貴被告が母親に「お金持ちと結婚した」と電話で伝えているのを聞いているからだ。

 また、姉が「誰かと付き合っているの?」とLINEで尋ねたところ、早貴被告から結婚した事実を告げられ、結婚の理由については「お金をくれるから」「死ねば遺産が入るから」と答えたという。野崎氏との結婚が、野崎氏の資産目当てだったことがうかがえる。

 一方、身内にも野崎氏殺害をほのめかすようなメッセージは残していない。警察による強制捜査が行われた後も、早貴被告は姉に対し「自殺か事故じゃないかな」「自然死で遺産が入る予定だった」などとメッセージを送り、母に対しては「覚醒剤もやっていないし、殺してもいない」と自身の関与を否定していたという。

 ただ早貴被告がどれだけ野崎氏殺害を否定しても、売人の証言などにより、“外堀”は徐々に埋められていっているように見える。一方、検察側が苦しいのは、早貴被告が野崎氏に覚醒剤を経口摂取させたという直接証拠がないということだ。早貴被告側はその点を最大限に“利用”して無罪を勝ち取る作戦だろう。

 今後、検察側はどのような証拠を出して犯罪を証明しようとしているのか。「紀州のドン・ファン殺人事件」の公判からまだまだ目が離せない。