通常兵器攻撃にまで核兵器使用を検討

 そこで、これまでのロシアの核ドクトリンが、新ドクトリンによってどのように変化したのかについて概観してみよう。

2020年の核ドクトリン

 ロシアは、2020年6月に公表した「ロシア連邦の核抑止に関する国家政策の基本原則」で、「ロシアが核兵器の使用に踏み切る条件」として、次の4つのシナリオを挙げている。

①ロシアおよび(または)その同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼のおける情報を得た時。

②ロシアおよび(または)その同盟国の領域に対して敵が核兵器またはその他の大量破壊兵器を使用した時。

③機能不全に陥ると核戦力の報復活動に障害をもたらす死活的に重要なロシアの政府施設または軍事施設に対して敵が干渉を行った時。

④通常兵器を用いたロシアへの侵略によって国家が存立の危機に瀕した時。

 この中で、④の文言に係わる国防関係者の言説は、ロシアが国家の存続が危険に曝されているときだけでなく、すでに通常戦に従事していて、他の国を屈服させるために脅迫しようとしているときにも核兵器に頼ることを示唆してきた。

 そして、ロシアは2022年2月24日の違法なウクライナ侵略以来、この考えを核兵器による恫喝と強制という形で多用してきた。

 しかし、頭書述べたように、ウクライナは第2戦線を形成して戦局を打開するためロシア領内に進軍し、9月初旬には144機のドローンでロシア深部を攻撃した。

 さらに、西側諸国がウクライナに供与した長距離ミサイルの使用条件を緩和するどうかについてNATO同盟間で真剣な議論が交わされている。

 また、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米国を訪問し、ジョー・バイデン大統領をはじめとする政策決定者に「勝利計画」を売り込み、協力を求めた。

 このように、ウクライナの次の行動と、それに対する米国・NATOの動向が不透明な状況の中で、プーチン大統領は核ドクトリンの変更を表明したのである。