ロシアの核脅威が日本防衛に示唆する課題

情勢緊迫時の「核の持ち込み」は不可避

 プーチン大統領は今年6月、核ドクトリンの改定をほのめかし、西側諸国に対し次のように述べて警告を発していた。

●たとえ米国が(戦術核を)運んできたとしても、それより多くの戦術核をロシアは欧州大陸に持っている。

●欧州は進んだ(早期警戒システム)を持っていないため、その分、欧州はある意味で無防備なのだ。

 この警告は、核兵器の中で最も使用の敷居が低く、蓋然性の高い戦術核(戦場核、短距離核ミサイル)において、西側に対するロシアの優位性を強調したものである。

 特に、ウクライナは非核保有国であるうえに、NATOに加盟していないため、NATO、特に米国の拡大抑止(核の傘)による保護を受けられる立場にない。

 その弱点を突いたものである。

 この観点からすると、欧州大陸でウクライナが置かれた状況と東アジアで日本が置かれた状況は似通っている。

 日本は非核保有国であり、そのため、核抑止については同盟国である米国の拡大抑止に全面的に依存している。

 しかし、その実効性には大きな問題の存在が指摘される。

 中距離核戦力(INF)全廃条約の非加盟国であった中国は、中距離核戦力を着実に増強し、戦術核も多数保有している。

 一方、米国は、これまでソ連/ロシアとのINF全廃条約に基づき中距離核戦力を廃棄してきた。

 もちろん、我が国には戦術核も配備していない。

 万一、中国が中距離核ミサイルや短距離核ミサイルで我が国を攻撃あるいは威嚇しようとした場合、米国は、同国本土への中国の報復が不可避と見られる戦略核ミサイルによって、我が国に抑止力を提供するであろうか、できるであろうか。

 残念ながら、その可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

 つまり、中距離・短距離核戦力の米中ギャップによって、プーチン大統領がいみじくも指摘したように、米国の日本に対する拡大抑止には重大な実効性上の問題が内在している。

 この死活的な問題を解決する有力な手段の一つとして、情勢緊迫時、少なくとも米軍の核戦略上の要求に基づく「核の持ち込み」を認め、抑止効果を高めることは、我が国防衛における必須の要件ではなかろうか。

 それが、プーチン大統領の核ドクトリン見直しによって提示された我が国への貴重な教訓である。