NATO首脳会議に出席した岸田首相。右はNATOのストルテンベルグ事務総長(7月11日撮影、NATOのサイトより)

設立75周年を記念するNATO首脳会議

 今年は、1949年に北大西洋条約機構(NATO)が設立されてから75周年に当たり、それを記念するNATO首脳会議(サミット)が、7月9~11日、米国の首都ワシントンD.C.で開催された。

 本サミットには、フィンランド(2023年加盟)とスウェーデン(2024年加盟)の両国が初参加し、参加国は合計32か国となった。

 高度な軍事力を持つ2つの成熟した民主主義国の加盟で、特にバルト海地域におけるNATOの安全保障が強化されたことは間違いない。

 また、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をはじめ、欧州連合(EU)、そしてNATOがインド太平洋地域の主要パートナーの枠組み(IP4)として位置付ける日本、豪州、ニュージーランド、韓国の4か国首脳がオブザーバー参加し、ユーラシア東西の安全保障が不可分であることを鮮明にした。

 本サミットの最大のテーマは、2022年2月から進行中の「ロシアによるウクライナ侵略(ウクライナ戦争)」である。

 また、ウクライナ戦争の帰趨次第では、ロシアの脅威がさらに拡大することを恐れる北欧、バルト三国、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなど、ロシアに隣・近接する同盟の東側諸国に対し、集団防衛と抑止体制を強化していかに懸念を払拭できるかが大きな課題である。

 設立75周年記念NATOサミットは、まさにNATOの設立目的を問われかねない正念場を迎えた歴史的転機となったといえよう。

 サミット開催に当たり、NATO当局者は「サミットの主要な優先事項」として、次の4項目を挙げた。

①同盟国の安全保障支援と軍事訓練を調整するためのNATOの新たな任務を通じて、また、NATO加盟へのより明確に定義された道筋を提供することなどにより、ウクライナに対するNATOの支援の強化。

②ロシアによる安全保障上の脅威に対応するためのNATOの集団防衛と抑止力の強化。

③同盟国の防衛費と投資の増加。

④主に中国による安全保障上の脅威に対処するため、インド太平洋地域のパートナーとの関係の強化。

 そこで、以下、この優先事項に沿い、サミットの一連の会議等における成果や問題点などについて、その要点を概説することとする。