「日本一」に向けた戦いに水を差す、との声

 この日、11勝目を挙げ、岡田監督の母校・早大の後輩でもある大竹耕太郎投手は「(退任が)事実か分からないけど、本当にお世話になった」などと語っているが、これもメディア側が退任に関する質問をぶつけて引き出したコメントだろう。

「これから盛り上がるという中で、なぜ、こうした報道が出るのか」。ある球界OBが筆者の取材に苦言を呈するように、日本一に向けた戦いの最中に、水を差す報道であると批判されても仕方がない。

「知れば、すぐに書く」は、メディアの鉄則であり、阪神の監督人事は、在阪メディアにとって威信をかけたスクープ合戦である点も間違いない。記者の功名心も見え隠れするが、表向きには「読者の知る権利に応える」というのが大義名分である。

 その意味で、スポーツ報知のスクープは見事のひと言である。一方で、近年の読者ニーズにマッチしているかは、また別問題でもある。

プロ野球公式戦の今季最終戦を終え、ファンの声援に応える阪神の岡田監督(写真:共同通信社)

 観客やネット上の反応は、早くも岡田監督への感謝の言葉であふれる一方、こうした報道に批判的な声も多くみられる。

 阪神ファンやプロ野球に限らず、他競技においても、近年のファンや読者は「進退に関する大事な発言は、本人の言葉で聞きたい」「本人の意向を尊重すべき」という声が高まりをみせる。岡田監督に関しても、退任の理由はV逸なのか、66歳という年齢などによる体調面への不安なのか。いずれにしろ、本人から明確な言葉は語られる前に報道が出た。

 プロ野球などのスポーツでは、監督や選手の進退、メジャー移籍などに関する記事では、当事者が親しい関係にあったり、日頃から熱心に取材をしたりしている記者に記事になることを前提に打ち明けるケースもある。記者は情報を聞いていても、シーズンの全日程が終了した翌朝にスクープするなど節目を待って報じるケースが多い。

 しかし、今回は、岡田監督が退任報道に関する質問を避けるように取材に応じておらず、報道が出ることを事前に納得していたかは疑問が残る。

 阪神の監督人事を巡っては、岡田監督が2度目の監督に就任した2年前は、矢野燿大前監督が開幕前にシーズン終了後の退任を明言する異例の事態だった。オフの監督交代が“オープンリーチ”の中、球団は、シーズン中の次期監督人事に関する報道の自粛を求めていたが、サンスポが岡田氏起用を報じ、出入り禁止処分を受けた。

 “紳士協定”が守られなかったことが、情報をつかんだ時点で、他社に書かれる前に書くという今回の伏線にあったともいえる。リークした側には、可能性を残す日本一を達成する前に退任を既定路線にしたい思惑もあったかもしれない。