白人優先か、他民族・多文化か

 今一つ、この「対決」には大きな見どころがあった。

 この対決は、米国の多民族化(非白人マジョリティ化)、キリスト教的社会倫理の衰退に危機感を抱く白人保守主義勢力に対し、「古き良きアメリカへの回帰」をオワコン視しグローバル化を推進しようとする多民族リベラリズム勢力が真正面から論争を挑む場になった。

 いわゆる「カルチャー・ウォア」(Culture War=文化戦争と訳すよりも「米国人としての生きざま全体をめぐる文明戦争」と言った方がいいかもしれない)について、共に高学歴、政治経験もあり、しっかりした論理構成で論じ合える「ミレニアム世代」の働き盛りの白人男性が90分間、意見を戦わす稀有な機会でもあった。

やっと出たカルチャー・ウォアの蒸留化論争

 有力誌タイムは、こう位置付けていた。

「バンス氏、ウォルズ氏の公開討論は、今回の大統領選だけでなく、米国の将来に向けて保守、リベラルが戦っているカルチャー・ウォアを蒸留化させる(Distillation of Culture War)場でもある」

(「蒸留化」とは、カルチャー・ウォアでの対立点の明確化、説得力を指すものと思われる)

time.com/walz-vance-debate-what-to-expect/

 本来であれば、大統領候補であるハリス氏とトランプ氏との討論がその場であるはずだった。

 ところが、トランプ氏は「とりとめもなく喋りまくる根拠のない事実誤認と作り話」(ロサンゼルス・タイムズ)で、真剣で知的な政策論争ができなくなっている。

www.latimes.com/2024-election-trump-mental-acuity

(それが高齢による認知力低下が原因なのか、元々トランプ氏はそうした知的な論争ができないのか、意見が分かれるところでもある)

 このため、トランプ氏が教祖のMAGA(再び米国を偉大に=トランピズム支持・推進組織)の「政治理念・政策立案者たち」はトランプ氏から距離を置き、トランピズム継承者になったバンス氏の政策・キャンペーンに全力を集中しているとされる。

 さて、副大統領候補の論争は軍配がどちらに上がったか。

 前述のベテラン・ジャーナリストは、「その内容はともかくとして」と前置きして、こう採点している。

「共に背後に控えている民主、共和両党の理論家集団に支えられて、いかにしたら分裂と混乱の米国を立て直すかの青写真を理路整然と提示し、相手の目を見ながら対話したことは意義深い」

「両者が『Free to disagree』(賛成しなくて結構)『Agree to disagree 』(相手の異論は認める)と言い合っていたのは清々しかった」

「無党派層の浮動票獲得争いでは、ウォルズ氏が寄り切ったのではないのか。バンス氏は雄弁で善戦したものの、背負うハンデが重かった」

 明日、明後日の世論調査の結果はどう出るのだろうか。