地政学リスクの高まりで不安定化する商品価格

 そこで第二に、米国の物価と商品価格のこれまでの推移について確認しておきたい。図2は、米国のインフレ率と主要商品価格の変化率を示したものである。

【図2】米消費者物価指数と主要商品価格
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 ウクライナ紛争で一時的に注目された原油価格であるが、2020年代は、年率でプラス4%程度であり、景気に悪影響を与えるほどの上昇率ではない(濃灰色の棒グラフ)。

 1990年代後半も2000年代前半も年率9%を上回り、2000年代後半には13%超にまで大幅に上昇していただけに、現状の原油価格は落ち着いていると言ってもよいだろう。

 また、2000年代から2010年代前半にかけて、小麦を中心とした穀物価格は、「爆食経済」と称される新興国の経済成長が上昇の背景になった(淡灰色の棒グラフ)。原油価格だけでなく、小麦価格も2000年代を通して6%程度半ばの上昇となったことから、商品価格の上昇が発生していたのが理解されよう。

 今後も、地政学リスクの上昇が、商品価格の変動率の上昇につながることは否定できないだけに注意が必要である。20世紀末に加速したグローバリゼーションとは異なり、21世紀に至って、世界の分断化が進んでいるからである。

 現在は、経済のブロック化が進み、効率的なサプライ・チェーンが破壊され始めているのである。原油や穀物、資源といった商品を、貿易を通して世界中から調達できる時代ではなくなっている。それだけに、国際政治の混乱が、商品価格の上昇につながる可能性は高いままで推移するだろう。

 さらに、地政学リスクの高まりが指摘されるようになってから、金価格も上昇基調に転じている。

 これまでも、世界が不安定化するとき、もしくは国際通貨システムが揺らぐときには、安全資産とされる金価格が上昇する傾向があるとされてきた。